エレベーター巻上機のインバータ駆動と大電流母線|銅ブスバー設計の要点
エレベーターの巻上機(インバータでモーターを駆動する装置)には、停止状態から短時間で加速・減速を繰り返す特有の負荷がかかります。この記事では、巻上機まわりの大電流母線(銅バー・ブスバー)になぜ太い導体が必要なのか、インバータ駆動によって始動電流がどう変わるのか、制御盤内で母線を設計するときに確認すべき数値を整理します。結論から言うと、現在主流のVVVF(インバータ)制御では始動電流は定格電流の100〜200%程度に抑えられており、全電圧始動(700〜1000%)を前提にした太い母線はむしろ過大設計になりやすい、という点が設計の出発点になります。
エレベーター
巻上機
インバータ
大電流母線
銅ブスバー
ブスバー(バスバー)
JIS C8480
この記事の内容
巻上機の母線に大電流対応が必要な理由
エレベーターの巻上機は、停止から短時間で定格トルクに達する運転を1日に何十回も繰り返すため、瞬時電流に余裕を持たせた母線(銅バー・ブスバー)設計が必要です。
巻上機とは、ロープを巻き取ってかごを昇降させるモーターと減速機(ギヤレス機では減速機なし)を一体にした装置です。乗用エレベーターでは、1回の走行が数秒〜十数秒と短く、1日の運転回数が多いビルほど頻度が高くなります。この「短時間・高頻度」という運転パターンが、連続運転の一般産業用モーターとは異なる母線設計の論点を生みます。
前提
母線(銅バー・ブスバー)は、巻上機を制御するインバータと主幹ブレーカ・制御盤内の端子台をつなぐ導体です。電線(ケーブル)で配線される機種もありますが、大容量機や高層用では、放熱面積を確保しやすく分岐や接続部の加工自由度が高い銅バーが選ばれます。
インバータ駆動で始動電流はどう変わるか
現在の主流であるVVVF(インバータ)制御では、始動電流は定格電流の概ね100〜200%程度に収まり、全電圧始動(定格の700〜1000%)を前提にした母線は過大設計になりやすい点に注意が必要です。
誘導電動機を商用電源に直接つないで全電圧始動すると、始動電流は定格電流の700〜1000%に達することがあります。一方、エレベーター用の巻上機は現在ほぼすべてがVVVFインバータで駆動されており、電圧と周波数を滑らかに立ち上げるため、始動時の突入電流が小さく抑えられます。この差は、母線の断面積を決める際の前提条件そのものを変えるため、古い設計資料をそのまま流用すると太すぎる(=コスト過多)母線になることがあります。
始動方式による始動電流の目安(定格電流比)
ただし、この数値は電動機単体の始動電流であり、母線サイズは最終的に「連続定格電流」「短時間過負荷」「周囲温度」「設置環境(盤内の通風)」の組み合わせで決めます。インバータ駆動だから一律に細くしてよいという単純な話ではなく、巻上機の仕様書(定格電流・過負荷率)を起点に、ブスバーとはどのような考え方で選ぶ部材かを踏まえて個別に確認することになります。
ギヤレス機とギヤード機で母線設計の考え方は変わるか
巻上機の方式(ギヤレス機・ギヤード機)そのものより、組み合わされるインバータの容量と設置される機械室・昇降路の通風条件が、母線の設計条件を左右します。
近年の乗用エレベーターは、減速機を持たず低速・高トルクの永久磁石同期モーターで直接ロープを駆動する「ギヤレス機」が主流です。従来の「ギヤード機」(誘導モーター+減速機)と比べてモーター自体の特性は異なりますが、母線側から見た場合の設計の勘所は共通しています。重要なのは方式の違いそのものより、インバータの定格電流・設置スペースの通風条件です。
機械室ありのレイアウト
- 制御盤・母線の設置スペースに比較的余裕がある
- 自然換気や空調で放熱条件が確保しやすい
- 既存設備の改修(リニューアル)事例が多い
機械室レス(昇降路内設置)のレイアウト
- 制御盤が昇降路上部などの限られた空間に収まる
- 盤内が密閉気味になりやすく、放熱条件の確認が重要
- 母線の取り回し形状が複雑になりやすい
機械室レスのように盤内スペースが限られる設置では、母線の曲げ形状や接続部の配置を工夫して無理のない取り回しにする必要があります。設置環境ごとに放熱条件が変わるため、同じ定格電流のインバータでも、機械室の有無によって確認すべき余裕度は変わってきます。
加減速の繰り返しによる熱蓄積という別の課題
始動電流そのものがインバータ駆動で下がっても、高頻度の加減速運転では母線やインバータ周辺に熱が蓄積しやすく、単発の最大電流だけでなく繰り返し運転を踏まえた温度上昇の確認が必要です。
連続鋳造機の電磁攪拌コイルやポンプの始動のように「立ち上がったら一定時間流れ続ける」負荷と違い、巻上機は加速・定速・減速・停止を短い周期で繰り返します。1回あたりの電流は小さくても、繰り返し回数が多いビル(オフィス・商業施設の高稼働エレベーター)では、母線や接続端子部にじわじわと熱が蓄積し、見かけ上の定格電流だけでは発熱を読み切れないことがあります。
注意
高頻度運転の巻上機では、瞬時の最大電流だけでなく「1時間あたりの始動回数」「連続運転時間率」を考慮した実効電流で温度上昇を確認することが望ましいです。単発の定格電流だけで母線断面積を決めると、繁忙時間帯の発熱が想定を超える場合があります。
コツ
設計初期の段階で、巻上機メーカーから「1時間あたりの標準運転回数」や「始動時の過負荷率・時間」が分かる資料をもらえると、母線サイズの妥当性を数値で確認しやすくなります。
銅バーの許容電流はどの規格で確認するか
配電盤・制御盤内の銅帯(ブスバー)の電流密度は JIS C 8480(キュービクル式高圧受電設備用語を含む配電盤規格群)の考え方に沿って、電流値の区分ごとに上限の電流密度が目安として示されています。
具体的には、母線に流す電流値が大きくなるほど、単位断面積あたりに流せる電流(電流密度)の上限は下がっていきます。これは、太い母線ほど放熱の効率が相対的に悪くなるためです。巻上機の母線を検討する際も、まず連続定格電流を区分に当てはめ、目安の電流密度から必要断面積を逆算し、そこに実際の設置環境(盤内の通風・周囲温度・他の発熱源との位置関係)を加味して余裕を見るという順序で進めます。
電流区分ごとの電流密度の目安(JIS C 8480の考え方)
| 電流区分 | 電流密度の上限目安 | 傾向 |
|---|---|---|
| 100A以下 | 2.5A/mm²以下 | 細い母線でも比較的余裕 |
| 100A超〜225A以下 | 2.0A/mm²以下 | 巻上機の一般的な容量帯 |
| 225A超〜400A以下 | 1.8A/mm²以下 | 大型・高層用で該当しうる |
| 400A超〜500A以下 | 1.5A/mm²以下 | 大容量の受電盤側に多い |
電流区分ごとの電流密度の目安(JIS C 8480の考え方)
100A以下
電流密度 2.5A/mm²以下
100A超〜225A以下
電流密度 2.0A/mm²以下
225A超〜400A以下
電流密度 1.8A/mm²以下
400A超〜500A以下
電流密度 1.5A/mm²以下
前提
上記はあくまで目安の電流密度です。実際には「母線・分岐導体の温度上昇が規定値を超えないことが保証される場合」という条件が付いており、最終的な断面積は温度上昇試験や実測、設置環境での余裕を踏まえて決めます。数値を鵜呑みにせず、設計段階で個別に確認してください。
制御盤内で母線を設計・発注するときの確認項目
巻上機の母線を発注するときは、連続定格電流だけでなく、運転頻度・盤内レイアウト・接続部の仕様までまとめて伝えると、手戻りの少ない見積りにつながります。
発注前に整理しておきたい情報
- 巻上機・インバータの連続定格電流と瞬時最大電流
- 1時間あたりの標準的な始動(運転)回数、高頻度帯の想定
- 制御盤内の設置スペース(母線の取り回し・他機器との離隔)
- 接続端子の仕様(ボルト径・穴ピッチ・既設インバータ側の端子形状)
- 表面処理の要否(接触抵抗を下げたい場合は錫めっき等)
曲げ・穴あけ・端子部の加工精度は、締結後の接触抵抗や発熱に直結します。巻上機まわりの母線は限られた盤内スペースに収める都合で複雑な曲げ形状になることも多く、加工技術の記事で紹介しているような曲げ・穴あけの勘所を押さえた加工精度が仕上がりを左右します。
前提
接続部の構造は下記のようなイメージです。ボルト締結部の面積・座金の当たり方が接触抵抗に影響するため、図面上での指示が重要になります。
インバータ出力端子 ──┬── 銅バー(母線) ──┬── 主幹ブレーカ側端子
└── ボルト締結 └── 座金+ナット
リニューアル工事と母線更新のタイミング(2026年時点)
設置から20〜25年を経過したエレベーターは部品供給が難しくなる時期と重なりやすく、制御盤を含むリニューアル工事に合わせて母線を見直す建物が増えています。
最新の状況(2026年時点)
国内の分譲マンションや商業ビルでは、設置後20〜25年前後で主要な電子部品・制御盤の供給が難しくなる時期を迎え、制御リニューアル(制御盤を中心とした更新工事)を検討する物件が増えています。旧世代の制御盤から現行のVVVFインバータ制御へ切り替える工事では、始動電流の前提が変わるため、既設の母線をそのまま流用できるか、断面積・接続形状を見直す必要があるかを個別に確認することが実務上のポイントになります。
リニューアル工事は制御盤メーカー・設備業者が主体となって進めるケースが大半ですが、母線そのものの再製作や形状変更が必要になった場合、図面と現物の寸法さえ分かれば加工のみの相談も可能です。板厚・曲げ形状・端子位置が既設と異なる場合は、品質管理の考え方に沿って検査成績書の要否なども含めて早めに相談すると、工事日程への影響を抑えやすくなります。
よくあるご質問
エレベーターの巻上機になぜ大電流母線(銅バー)が使われるのですか
巻上機は停止状態から短時間で定格トルクまで立ち上がる運転を高頻度で繰り返すため、瞬時電流に対応できる導体が必要になります。電線より放熱面積を確保しやすく、分岐や接続部の形状自由度が高い銅バー(ブスバー)が、大容量機や高層用エレベーターの制御盤でよく使われます。
インバータ駆動にすると母線はどれくらい細くできますか
全電圧始動の始動電流(定格の700〜1000%)を前提にした設計と比べ、VVVFインバータ駆動では始動電流が定格の100〜200%程度に収まるため、母線を細くできる余地はあります。ただし、繰り返し運転による熱蓄積や設置環境の余裕も加味して決める必要があり、始動電流だけで一律に判断するものではありません。
エレベーター制御盤の銅バー許容電流はどの規格を見ればよいですか
配電盤・制御盤内の銅帯(ブスバー)の電流密度は、JIS C 8480の考え方に沿って電流区分ごとの上限目安が示されています。ただし、母線の温度上昇が規定値を超えないことが前提条件になっているため、実際の断面積は設置環境や温度上昇の実測を踏まえて決めます。
リニューアル工事で母線も必ず交換する必要がありますか
必ずではありません。既設の母線がそのまま使える場合もありますが、旧世代の制御方式から現行のVVVFインバータ制御に切り替える工事では、始動電流の前提や端子形状が変わることがあるため、断面積や接続部の形状を見直す必要がないか個別に確認することをおすすめします。
