銅ブスバーのトラッキング現象とは|粉塵堆積と沿面放電のCTI対策
盤内に堆積した粉塵が湿気を吸うと、絶縁物の表面で微小な放電が繰り返され、やがて炭化した導電路(トラック)ができて絶縁が破壊されることがあります。これが「トラッキング現象」です。銅ブスバー(バスバー)まわりでは、絶縁被覆・支持碍子・端子台の表面が主な発生箇所で、結露のように水分そのものが直接の引き金になる劣化とは発生条件が異なります。この記事では、粉塵由来のトラッキングが起きる条件、絶縁材料の耐トラッキング性を示すCTI(比較トラッキング指数)の考え方、盤内での点検・清掃による対策を整理します。
銅ブスバー
トラッキング現象
CTI
絶縁劣化
沿面放電
盤内清掃
JIS C 2134
この記事の内容
トラッキング現象とは何か
トラッキング現象とは、絶縁物の表面に付着した粉塵や汚損物が湿気を含むことで微小な放電(沿面放電)が繰り返し起こり、表面が徐々に炭化して導電性の通路(トラック)ができる劣化現象です。トラックが絶縁物を貫通するほど成長すると、本来は電流が流れないはずの経路で短絡や地絡が起き、発熱・発火に至ることがあります。
前提
トラッキングは「絶縁物の内部」ではなく「絶縁物の表面」で進行する劣化です。板厚や芯材の絶縁性能が十分でも、表面が汚れていれば発生します。盤の美観ではなく安全上の問題として扱う必要があります。
トラッキングは絶縁物表面の汚損+湿気+微小放電が重なって進行する、表面劣化の一種です。
なぜ粉塵で発生するのか(メカニズム)
工場内の盤では、金属粉・繊維くず・油分を含んだ粉塵が換気や振動で盤内に入り込み、絶縁物の表面やブスバーの支持部に少しずつ堆積します。この粉塵が湿気(結露・高湿度・油煙の水分)を吸うと表面の絶縁抵抗が局所的に下がり、わずかな漏れ電流が流れ始めます。
漏れ電流が流れる経路では局所的に乾燥と再付着が繰り返され、微小なアーク(トラッキングアーク)が発生します。このアークが表面を炭化させ、炭化した部分は電気を通しやすいため、次の放電がさらに起きやすくなるという悪循環で進行します。油分を含む粉塵や導電性の金属粉(切粉・溶接スパッタなど)が混じると、炭化が進みやすく、トラッキングの進行が速くなる点に注意が必要です。
注意
トラッキングは「乾燥した粉塵だけ」でも「湿気だけ」でも進行しにくく、両方が重なったときに進行します。そのため、乾燥した季節は平気でも、梅雨や結露の多い時期に急に発生・進行することがあります。
金属粉・油分を含む粉塵が湿気を吸うと微小放電が起き、炭化と放電が悪循環で進行します。
耐トラッキング性を示すCTIとは
CTI(Comparative Tracking Index、比較トラッキング指数)とは、絶縁材料がどの程度トラッキングを起こしにくいかを示す数値で、電解液を滴下しながら電圧を上げていく試験で求めます。試験方法はJIS C 2134「固体絶縁材料の保証及び比較トラッキング指数の測定方法」に規定されており、IEC 60112が国際的な対応規格です。CTI値が高いほど、同じ汚損条件でもトラッキングが起きにくい材料と判断できます。
IEC 60664-1などの絶縁協調の考え方では、CTI値によって絶縁材料を材料グループに分類し、必要な沿面距離(絶縁物表面に沿った最短距離)を決める目安として使います。
CTI値による材料グループの目安(IEC 60112/60664-1の考え方)
| 材料グループ | CTI値の範囲 | 耐トラッキング性 |
|---|---|---|
| グループ I | 600以上 | 高い |
| グループ II | 400以上600未満 | 中〜高 |
| グループ IIIa | 175以上400未満 | 中 |
| グループ IIIb | 100以上175未満 | 低い |
CTI値による材料グループの目安(IEC 60112/60664-1の考え方)
グループ I
CTI 600以上(耐トラッキング性:高い)
グループ II
CTI 400以上600未満(耐トラッキング性:中〜高)
グループ IIIa
CTI 175以上400未満(耐トラッキング性:中)
グループ IIIb
CTI 100以上175未満(耐トラッキング性:低い)
材料グループの下限CTI値の比較(グループIを100%とした目安)
コツ
絶縁被覆材や支持碍子を選定・支給する際は、材質名だけでなくCTI値(またはグループ)を確認すると、粉塵の多い環境でどの程度余裕があるかを事前に判断しやすくなります。
CTIは絶縁材料の耐トラッキング性を示す数値で、JIS C 2134に基づき材料グループとして扱われます。
結露・紫外線による劣化との違い
銅ブスバーの絶縁劣化にはいくつかの原因があり、対策も異なります。粉塵由来のトラッキングは「汚損+湿気+微小放電」が条件ですが、結露による腐食・絶縁劣化は「水分そのものの付着」が主因で、紫外線による被覆のひび割れは「屋外での光劣化」が主因です。原因を取り違えると、対策(清掃なのか、換気・断熱なのか、遮光・UVカット材なのか)がずれてしまいます。
粉塵由来のトラッキング(本記事)
- 工場など粉塵の多い屋内環境で起きやすい
- 汚損+湿気の組み合わせが条件
- 対策の中心は清掃・防塵・CTIの高い材料選定
結露による腐食・絶縁劣化
- 温度差で生じる水分の付着が主因
- 屋外盤や空調の効きにくい盤で起きやすい
- 対策の中心は換気・ヒーター・防滴構造
結露が主因の劣化については、関連記事「ブスバーとは」で導体としての基礎を押さえたうえで、個別の劣化メカニズムを確認することをおすすめします。
粉塵由来のトラッキングと結露・紫外線による劣化は原因が異なり、対策も清掃系と防水・遮光系に分かれます。
盤内での発生しやすい場所と前兆
トラッキングは、粉塵が溜まりやすく、かつ絶縁物の表面に電位差がかかっている場所で起きやすくなります。具体的には、ブスバー支持部の碍子・絶縁ブロック表面、端子台の相間、換気口付近の絶縁カバー表面などが代表的です。
点検時に確認したい前兆
- 絶縁物表面に黒っぽい筋状の跡(炭化の初期段階)がないか
- 支持碍子や端子台の周辺に綿状・油分を含んだ粉塵が堆積していないか
- 湿度の高い時期に、特定の相間だけ発熱や異音(放電音)が増えていないか
- サーモグラフィ点検で、絶縁物表面に局所的な温度上昇が見られないか
黒い筋や微小な炭化痕は、トラッキングがすでに進行し始めているサインです。見つけた場合は清掃だけで済ませず、絶縁物自体の交換を検討する必要があります。
炭化の筋・油を含んだ粉塵の堆積・局所的な発熱は、トラッキング進行の典型的な前兆です。
点検・清掃による対策
粉塵由来のトラッキング対策の基本は、絶縁物表面に汚損と湿気を同時に溜めないことです。清掃周期は環境によって異なり、切削粉・溶接ヒューム・金属粉が多い工場エリアでは月次〜3カ月に一度、一般的な事務所併設の電気室では半年に一度を目安に点検・清掃する運用が現実的です。
前提
清掃周期は設備や設置環境で大きく変わるため、上記はあくまで目安です。実際の周期は、点検時の汚損・炭化の有無を見ながら、自社の設備で調整していく必要があります。
注意
清掃はブロワーなどで粉塵を吹き飛ばすだけでは不十分な場合があります。油分を含んだ粉塵は表面に固着していることが多く、絶縁物の材質に適した方法(乾式クロス拭き・専用クリーナーなど)で除去する必要があります。活線状態での清掃は感電・短絡のリスクがあるため、停電作業または絶縁保護具を用いた手順を守ってください。
コツ
盤の設置環境(粉塵量・湿度・換気)を点検記録に残しておくと、次回の清掃周期を根拠を持って判断できます。発熱・異音・炭化痕の有無とあわせて記録することで、トラッキングの兆候を早期に拾いやすくなります。
清掃周期は粉塵の多い環境で月次〜3カ月、一般環境で半年を目安にし、点検記録から自社の実情に合わせて調整します。
設計・調達の段階でできる対策
清掃などの保守運用だけでなく、盤を設計・発注する段階でもトラッキングの起きにくさを高めることができます。絶縁被覆や支持碍子にCTI値の高い(材料グループIまたはIIに相当する)材料を選ぶこと、沿面距離を汚損度の高い環境向けに余裕を持たせて設計すること、粉塵が溜まりやすい形状(段差や溝)を避けることが代表的な対策です。
銅ブスバーの絶縁被覆や粉体塗装の仕様を検討する際は、銅ブスバーへのめっきや絶縁処理の選定とあわせて、設置環境の粉塵・湿度条件を加工会社に伝えることで、より適した仕様を相談しやすくなります。図面や仕様書に環境条件(粉塵の有無、設置場所が屋内外か)を一言添えるだけでも、検討の精度が上がります。
当社では加工段階での寸法・公差管理に加え、材料証明や検査記録の管理にも対応しています。詳しくは品質管理のページをご覧ください。
CTI値の高い材料選定・沿面距離の余裕・粉塵が溜まりにくい形状の3点が、設計段階でのトラッキング対策になります。
よくあるご質問
トラッキング現象と結露による絶縁劣化は何が違いますか?
トラッキングは粉塵などの汚損物に湿気が加わって微小放電が繰り返される表面劣化で、結露による劣化は水分の付着そのものが主因です。原因が異なるため、対策もトラッキングは清掃・防塵、結露は換気・防滴構造が中心になります。
CTI値はどの程度あれば安心ですか?
絶対的な基準はなく、設置環境の汚損度や定格電圧によって必要な材料グループが変わります。粉塵の多い工場環境では、CTI値が高い材料グループI・IIに相当する絶縁材料を選ぶと余裕を持たせやすくなります。
盤内の清掃はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
切削粉や溶接ヒュームなど金属粉が多い工場エリアでは月次〜3カ月に一度、一般的な電気室では半年に一度が目安です。点検時に炭化の筋や粉塵の固着があれば、周期を短縮してください。
トラッキングの前兆はどこを見ればわかりますか?
絶縁物表面の黒っぽい筋状の跡、油分を含んだ粉塵の堆積、サーモグラフィ点検での局所的な温度上昇が主な前兆です。これらが見られる場合は清掃だけでなく、絶縁物の交換も検討してください。
活線のまま盤内を清掃してもよいですか?
感電や短絡のリスクがあるため、原則として停電作業で行うか、絶縁保護具を用いた安全な手順のもとで実施してください。清掃方法も絶縁物の材質に適したものを選ぶ必要があります。
