盤内ブスバーの温度上昇試験|測り方・判定・計算とのズレ
盤内ブスバーの温度上昇試験は、「何℃になったか」ではなく「周囲温度から何K上がったか」で判定します。判定値は適用する規格ごとに決まっており、キャビネット形分電盤のJIS C 8480では、基準周囲温度40℃に対してブスバーの温度上昇限度を65Kとする値が使われています。この記事では、測定点の決め方・定常状態の見極め方・判定の考え方に加えて、設計計算値と実測値がずれたときに疑うべき5つの点までをまとめます。
温度上昇試験
盤内母線
銅ブスバー
JIS C 8480
IEC 61439
熱電対
許容電流
この記事の内容
温度上昇試験とは何か
温度上昇試験とは、定格電流を連続して流したときに、各部が周囲温度からどれだけ温度上昇するかを測定し、規定値以下であることを確認する試験です。盤の設計検証(型式試験)の中核をなす項目で、母線・分岐導体・端子・外郭・操作部などが対象になります。
盤内ブスバーの場合、狙いは大きく2つあります。ひとつは導体自身が許容温度を超えないこと、もうひとつは導体の熱で周囲の絶縁物・機器・手で触れる部分が損なわれないことです。ブスバーは断面積で許容電流を決めますが、実際の盤では通風の悪さや隣接導体からの受熱で、計算どおりに冷えないことがあります。試験はその答え合わせにあたります。
2026年時点の状況
データセンターや系統用蓄電池の伸びで、盤の大電流化と高密度化が同時に進んでいます。同じ寸法の筐体により大きな電流を通す設計が増えたぶん、「計算では通るが試験で温度上昇限度に届かない」という手戻りが起きやすくなっています。分電盤の基本規格であるJIS C 8480は2023年に改正版が発行されており、参照時は年号(版)まで確認してください。低圧アセンブリの国際規格はIEC 61439シリーズで、母線ダクト(バスバートランキング)は同シリーズの-6が扱います。
関係する主な規格の位置づけ
温度上昇の判定でよく参照される規格
| 規格 | 対象 | 温度上昇との関わり |
|---|---|---|
| JIS C 8480 | キャビネット形分電盤 | 母線・分岐導体の温度上昇試験と限度値を規定(2023年に改正版) |
| JIS C 4620 | キュービクル式高圧受電設備 | 母線の材質・離隔・相表示などの要求。温度に関わる条件を含む |
| IEC 61439-1 / -2 | 低圧開閉装置・制御装置アセンブリ | 設計検証の一項目として温度上昇を規定 |
| IEC 61439-6 | バスバートランキングシステム | 母線ダクトとしての温度上昇要求 |
温度上昇の判定でよく参照される規格
JIS C 8480(キャビネット形分電盤)
母線・分岐導体の温度上昇試験と限度値を規定(2023年に改正版)
JIS C 4620(キュービクル式高圧受電設備)
母線の材質・離隔・相表示などの要求。温度に関わる条件を含む
IEC 61439-1 / -2(低圧アセンブリ)
設計検証の一項目として温度上昇を規定
IEC 61439-6(バスバートランキング)
母線ダクトとしての温度上昇要求
温度上昇試験は「盤の中で導体が想定どおりに冷えているか」を確かめる試験。参照規格は盤の種類で変わる。
判定はなぜ「℃」ではなく「K」で見るのか
温度上昇試験の判定は、測定温度そのものではなく「測定温度 − 周囲温度」で求めた温度上昇値(単位K)で行います。冬に試験して合格、夏に試験して不合格、という結果のブレを避けるためです。
例えばキャビネット形分電盤では、基準周囲温度40℃に対してブスバーの温度上昇限度を65Kとする値が使われます。この場合、母線の到達温度は40 + 65 = 105℃が上限の目安という読み方になります。周囲温度25℃の室内で試験して母線が85℃だったなら、温度上昇値は60Kなので判定はこの範囲に収まります。
注意:限度値は部位ごとに違う
温度上昇限度は「盤なら一律◯K」ではありません。母線・端子部・操作ハンドル・外郭表面で、それぞれ別の値が定められています。人が触れる部分は低く、導体内部は高く設定されるのが一般的です。実際の判定では、必ず適用する規格の該当版の表を確認してください。この記事の数値は考え方を示すための目安です。
温度が上がると発熱そのものが増える
銅は温度が上がると抵抗が増えます。20℃を基準とした抵抗温度係数はおよそ0.00393/Kで、温度が上がるほど同じ電流でも損失(I²R)が増えていきます。設計計算を常温の抵抗値で行うと、高温側での発熱を過小評価することになります。
断面積250mm²(板厚5mm × 幅50mm)の銅ブスバーに1,000Aを流したときの、1mあたりの損失を温度別に計算すると次のようになります(20℃の抵抗率を約1.72×10⁻⁸ Ω·mとした場合)。
温度による抵抗と損失の変化(銅 250mm²・1,000A・1mあたり)
| 導体温度 | 抵抗の倍率 | 抵抗値 | 損失 |
|---|---|---|---|
| 20℃ | 1.00 | 0.0688 mΩ/m | 68.8 W/m |
| 40℃ | 1.08 | 0.0742 mΩ/m | 74.2 W/m |
| 60℃ | 1.16 | 0.0796 mΩ/m | 79.6 W/m |
| 80℃ | 1.24 | 0.0850 mΩ/m | 85.0 W/m |
| 100℃ | 1.31 | 0.0904 mΩ/m | 90.4 W/m |
温度による抵抗と損失の変化(銅 250mm²・1,000A・1mあたり)
20℃ / 抵抗の倍率 1.00 / 0.0688 mΩ/m
損失 68.8 W/m
40℃ / 抵抗の倍率 1.08 / 0.0742 mΩ/m
損失 74.2 W/m
60℃ / 抵抗の倍率 1.16 / 0.0796 mΩ/m
損失 79.6 W/m
80℃ / 抵抗の倍率 1.24 / 0.0850 mΩ/m
損失 85.0 W/m
100℃ / 抵抗の倍率 1.31 / 0.0904 mΩ/m
損失 90.4 W/m
同じ1,000Aでも導体温度で損失は変わる(20℃を100とした指数)
判定は温度上昇値(K)で見る。そして温度が上がるほど発熱も増えるため、常温の抵抗値で計算すると甘く出る。
どこを測るか — 測定点の決め方
測定点は「最も温度が高くなりそうな場所」と「限度値が低く設定されている場所」の両方に置きます。前者を外すと最悪値を見逃し、後者を外すと判定そのものができません。
盤内ブスバーで、実務上まず押さえておきたい測定点は次のとおりです。
盤内母線でまず押さえる測定点
- 主母線の中央部 — 放熱条件が最も悪くなりやすい区間
- ボルト締結部(接続部)の直近 — 接触抵抗による局所発熱が出る場所
- 分岐部の付け根 — 電流が集中し、断面が減る箇所
- 遮断器・開閉器の端子部 — 母線側と機器側で限度値が異なる
- 盤上部の空間 — 熱がたまる位置。周囲の絶縁物への影響を見る
- 盤外の周囲温度基準点 — 温度上昇値の引き算に使う基準
コツ:周囲温度の測り方で結果が変わる
周囲温度の基準点は、盤の熱の影響を受けない位置で測ります。盤の高さの中央付近で、外郭から一定距離を離した位置に複数点を置き、その平均を使うのが一般的です。盤のすぐ横や排気口の近くに置くと周囲温度が高めに出て、温度上昇値が実際より小さく見えてしまいます。合格に見えて実は不合格という最も避けたい間違いがここで起きます。
断面が減る箇所は必ず測る
ボルト穴のある位置は、その分だけ通電に使える断面積が減ります。幅50mm・板厚5mm(250mm²)の母線にφ11の穴を1つあけると、その断面は 5 × 11 = 55mm² 減って195mm²になり、断面積は約22%減、その部分の発熱密度は約1.3倍になります。締結部は接触抵抗も加わるため、温度上昇試験でピークが出やすい場所です。穴の配置や縁距離の考え方は、加工技術のページでも触れています。
接触抵抗の発熱は無視できない
母線A ─────┐
├─ ボルト締結部(接触抵抗 Rc)
母線B ─────┘
1,000A × 1,000A × 10μΩ = 10W … 1か所あたり
締結部が6か所あれば 60W が盤内に追加される
接触抵抗が10μΩでも、1,000Aでは1か所あたり10Wの発熱になります。締結面の平面度・めっき状態・締め付けトルクで大きく変わる値で、設計計算では最も再現しにくい部分です。
最高温度が出そうな場所と、限度値が低い場所の両方に測定点を置く。周囲温度の基準点の位置が判定を左右する。
熱電対の取り付けと定常状態の見極め
温度上昇試験は熱電対を測定点に密着させ、温度変化が飽和した(定常状態になった)時点の値で判定します。取り付けが甘いと実際より低い温度が出るため、判定を誤ります。
取り付けで守ること
やること
- 測温接点を導体面に金属的に密着させる(はんだ付け・耐熱テープでの押さえ付けなど)
- 素線を測定点から数十mm、等温面に沿わせて引き回す
- K熱電対など、想定温度域に合った種類を選ぶ
- 導体が充電部である以上、絶縁と固定を確実にする
避けること
- 接点を浮かせたまま貼る(空気層があると低く出る)
- 測定点からいきなり冷たい方向へ素線を垂らす(熱が逃げて低く出る)
- 厚い断熱テープで覆う(その点だけ温度が上がって高く出る)
- 試験中に扉を開けて確認する(条件がリセットされる)
定常状態はどう判断するか
温度は通電開始から指数関数的に上がり、やがて頭打ちになります。多くの試験手順では「1時間あたりの温度変化が1K以下になった状態」を定常とみなしますが、判定条件は適用規格ごとに定められているため、必ず該当規格の規定に従ってください。
盤内母線の熱時定数は、導体の質量と放熱条件で決まります。厚板・大断面の母線ほど時定数が長く、飽和までに時間がかかります。試験時間を短く見積もると、上がりきる前に測ってしまうことになります。
よくある失敗
「3時間通電したから飽和したはず」と決めつけて終了するケースです。大電流・大断面の盤では飽和まで数時間から半日以上かかることがあります。温度の時間変化を記録し、傾きが規定以下に収まったことをデータで確認してから終えてください。
熱電対は密着と引き回しが命。定常判定は「時間あたりの変化量」で行い、記録で裏付ける。
計算値と実測がずれるときに疑う5点
設計計算と実測がずれる原因は、ほとんどが「計算が前提にしていた条件と、実物の条件が違う」ことにあります。計算式が間違っているケースは多くありません。次の5点から順に確認すると原因に早く辿り着けます。
① 放熱係数の置き方
密閉筐体の放熱量は「P = U × S × ΔT」(U:熱通過率、S:有効表面積、ΔT:内外温度差)で概算します。この U は実務で5〜6 W/(m²·K)前後の値が使われますが、設置環境・表面の色や仕上げ・盤の向きで実際の値は変わります。壁付けや盤の連結で有効表面積 S が減っていると、計算どおりには冷えません。
② 周囲温度の実態
設計では周囲温度40℃を前提にしても、盤が密集した電気室や、他機器の排気が当たる位置では、盤の吸気温度が想定より高くなります。周囲温度が10K高ければ、そのまま到達温度も10K上がります。
③ 接触抵抗のばらつき
前述のとおり、締結部の接触抵抗は設計計算に現れにくい発熱源です。締め付けトルクの不足、酸化皮膜、平面度の不足、座金の選び方で数倍に変わります。実測でピークが締結部に出ているなら、まずここを疑います。
④ 交流特有の損失(表皮効果・近接効果)
交流では電流が導体表面側に偏って流れるため、直流換算の抵抗値より実効抵抗が大きくなります。同じ断面積でも、厚みで稼いだ断面は電流容量に効きにくいのはこのためです。複数枚を密着して並列にした場合は、隣接導体の磁界による近接効果も加わります。
⑤ 電流の偏り
母線を複数枚並列にしたとき、電流は均等には分かれません。外側の板に多く流れる傾向があり、枚数を増やしても許容電流は比例して増えません。計算で「4枚だから4倍」としていると、実測でずれます。
ずれの方向から原因を絞り込む
| 実測の傾向 | 疑う原因 | 確認すること |
|---|---|---|
| 盤全体が一様に高い | 放熱条件・周囲温度 | 有効表面積、設置状態、吸気温度 |
| 締結部だけ突出して高い | 接触抵抗 | 締付トルク、めっき状態、平面度 |
| 盤上部だけ高い | 熱の滞留 | 通風経路、仕切板、機器配置 |
| 厚板の母線が想定より高い | 表皮効果 | 交流での実効抵抗、分割の可否 |
| 並列の外側の板が高い | 電流の偏り | 並列枚数と配置、間隔 |
| そもそも飽和していない | 試験時間不足 | 温度の時間変化の記録 |
ずれの方向から原因を絞り込む
盤全体が一様に高い
放熱条件・周囲温度 → 有効表面積、設置状態、吸気温度を確認
締結部だけ突出して高い
接触抵抗 → 締付トルク、めっき状態、平面度を確認
盤上部だけ高い
熱の滞留 → 通風経路、仕切板、機器配置を確認
厚板の母線が想定より高い
表皮効果 → 交流での実効抵抗、分割の可否を確認
並列の外側の板が高い
電流の偏り → 並列枚数と配置、間隔を確認
そもそも飽和していない
試験時間不足 → 温度の時間変化の記録を確認
ずれたら計算式ではなく前提条件を疑う。どこが高いかで原因はかなり絞り込める。
温度上昇を下げるために設計側でできること
温度上昇が限度に届かなかったとき、最初に検討されるのは断面積の拡大ですが、盤の寸法を変えずに効く手はいくつもあります。効果と手戻りの小ささで並べると次の順になります。
手戻りが小さい順の対策
- 締結部の見直し — 締付トルクの管理、接触面のめっき(錫・銀)、平面度の確保。加工側で対応でき、効果が出やすい
- 取付姿勢の変更 — 平角導体は縦置き(板面を垂直)にすると対流で冷えやすい。同じ断面積でも温度上昇が変わる
- 導体間隔を空ける — 密着並列を離して配置し、放熱面と近接効果を改善する
- 表面処理 — 黒っぽい仕上げは放射で熱を逃がしやすい。絶縁塗装との兼ね合いで判断する
- 形状の変更 — 厚く積むより、薄く広くする。交流では表皮効果の影響が減る
- 断面積の拡大 — 確実だが、材料費・重量・支持設計・盤内スペースすべてに波及する
コツ:締結部は「加工側」で改善できる余地が大きい
接触抵抗は、接触面の平面度・バリの有無・めっきの種類と厚みで決まります。当社(株式会社石垣商店・名古屋市守山区瀬古)では、切断から曲げ・穴あけ・表面処理の手配までを一貫して見ており、締結部の仕上げをどうするかは図面段階でご相談いただけます。めっきの選び方は銅ブスバーへのめっきのページも参考にしてください。
試験の前に効く「見える化」
試験で初めて温度分布を知るのではなく、設計段階で発熱の内訳を出しておくと手戻りが減ります。母線1本ごとに「長さ × 単位長さあたり損失」を足し、締結部の数 × 1か所あたりの発熱を加えれば、盤内に投入される熱量の概算が出ます。この値と筐体の放熱能力を突き合わせれば、試験前に無理があるかどうかは判断できます。
断面積を増やす前に、締結部・姿勢・間隔で稼げる分がある。設計段階での発熱の見える化が最も効く。
よくあるご質問
温度上昇試験とは何ですか
温度上昇試験とは、機器や盤に定格電流を連続して流し、各部が周囲温度から何K上昇するかを測定して、規定の限度値以下であることを確認する試験です。盤内では母線・分岐導体・端子部・外郭などが測定対象になります。
温度上昇の判定は何℃を基準にするのですか
判定は測定温度そのものではなく、「測定温度 − 周囲温度」で求めた温度上昇値(単位K)で行います。キャビネット形分電盤のJIS C 8480では、基準周囲温度40℃に対しブスバーの温度上昇限度を65Kとする値が使われており、到達温度でいえば105℃前後が目安になります。限度値は部位ごとに異なるため、適用規格の該当版で確認してください。
温度上昇試験の定常状態はどう判断しますか
温度の時間変化が十分に小さくなった時点を定常とみなします。多くの試験手順では1時間あたりの温度変化が1K以下になった状態を目安としますが、判定条件は適用規格ごとに規定されているため、必ず該当規格に従ってください。大断面の母線は飽和までに数時間以上かかることがあります。
設計計算値と実測値が合わないのはなぜですか
計算が前提にした条件と実物の条件が違うことがほとんどです。よくある原因は、放熱係数や有効表面積の置き方、実際の周囲温度の高さ、ボルト締結部の接触抵抗、交流での表皮効果、並列導体の電流の偏りの5つです。どの測定点が高いかを見れば原因はかなり絞り込めます。
ボルト締結部の発熱はどれくらい見込むべきですか
接触抵抗が10μΩの締結部に1,000Aを流すと、1か所あたり約10Wの発熱になります(I²R = 1,000² × 10×10⁻⁶)。締結箇所が多い盤ではこれが積み上がるため、締付トルクの管理・接触面のめっき・平面度の確保で接触抵抗を下げることが有効です。
盤内母線の温度上昇は、断面積だけでは決まりません。姿勢・間隔・締結部の仕上げ・盤の放熱条件が組み合わさった結果です。ブスバーとはのページで基礎を押さえたうえで、実際の盤の条件に合わせて詰めていくのが確実です。
