銅ブスバーの長穴で接触信頼性を落とさない設計|座金と断面積
銅ブスバーの長穴(小判穴)は取り付け位置の逃げを作る便利な形状ですが、接触信頼性の観点では丸穴より条件が厳しく、座金の選び方と有効断面積の確認が要ります。締結部の接触は「穴の周り」ではなく「面と面」で成立するため、長穴でも設計を押さえれば丸穴と同等の信頼性を確保できます。この記事では、長穴が必要になる場面、丸穴との違い、断面積が減る分の扱い(JIS C 8480の考え方)、座金と締結、図面での指示方法を整理します。
銅ブスバー
長穴
接触信頼性
接触抵抗
ボルト締結
有効断面積
熱膨張
図面指示
この記事の内容
長穴とは何か、どんなときに使うか
長穴とは、丸穴を一方向に伸ばした小判形の穴で、取り付け位置に調整幅(逃げ)を持たせるための形状です。相手側の端子ピッチに公差の積み上がりがあるとき、取り付けが現場合わせになるとき、熱伸縮を吸収したいときに使います。丸穴だけで組むと、わずかなずれをブスバーの無理な変形で吸収することになり、締結部に残留応力が残ります。
長穴が効く場面
- 相手機器の端子ピッチに公差の積み上がりがある
- 盤の据付後に位置を微調整したい
- 長い直線区間で熱伸縮を逃がしたい
長穴で注意する点
- 丸穴より断面積が減る
- 座金が小さいと荷重が穴に落ちる
- 逃がす方向と量を図面で決めておく必要がある
前提:長穴は「組みやすさ」と「電気性能」の両方に効く
ボルトを無理に通した締結部は面が均等に当たらず、局部的に接触抵抗が高くなります。位置が合っていることは接触の質に直結します。
要点:長穴は逃げを作る形状。無理な位置合わせを避けられる分、接触の質も上がる。
長穴と丸穴で何が変わるか
長穴と丸穴の違いは、位置の自由度が増える代わりに、断面積の減少と座面の支持条件が厳しくなる点です。電気的にはどちらも「ボルトで面を押し付ける」構造で同じですが、確認する項目が増えます。
長穴と丸穴の比較
| 項目 | 丸穴 | 長穴 |
|---|---|---|
| 位置の調整幅 | ほぼなし | 長さ方向に調整可 |
| 欠損する断面積 | 小さい | 大きい(幅方向の欠損が長い) |
| 座面の支持 | 座金が穴を覆いやすい | 座金の径・形状を選ぶ必要がある |
| 締結後の動き | 動かない | 締結力が不足すると動く |
| 熱伸縮の吸収 | できない | 条件を決めれば吸収できる |
| 加工 | プレス・ドリルで速い | プレス型またはマシニング |
長穴と丸穴の比較
位置の調整幅
丸穴:ほぼなし / 長穴:長さ方向に調整できる
欠損する断面積
丸穴:小さい / 長穴:幅方向の欠損が長く、大きい
座面の支持
丸穴:座金が覆いやすい / 長穴:座金の径・形状を選ぶ必要あり
締結後の動き・熱伸縮
丸穴:動かないが伸縮を吸収できない / 長穴:締結力が要るが伸縮を逃がせる
押さえておきたいのは、長穴の長手を通電方向に向けた場合、最も狭くなる断面の面積は同じ径の丸穴と変わらないことです。狭窄部の幅は長穴の幅で決まるためです。逆に長手を通電方向と直角に向けると欠損する幅が長穴の長さ分になり、断面積の減少が大きくなります。長穴の向きは電気設計上の意味を持ちます。
要点:長穴の向きで断面の減り方が変わる。通電方向に長く取るのが基本。
長穴で減る有効断面積の考え方
ボルト穴による断面積の減少は、減少分が全体の1/2以下におさまるなら考慮しなくてよいという考え方が、配電盤の規格であるJIS C 8480:2016を根拠に実務で使われています。同規格は母線の電流密度の上限を定格電流に応じて定めています。
JIS C 8480:2016 が示す母線の電流密度の上限
| 定格電流 | 電流密度の上限 | 備考 |
|---|---|---|
| 125A以下 | 3.0 A/mm²以下 | 小容量ほど密度を高く取れる |
| 125Aを超え250A以下 | 2.5 A/mm²以下 | |
| 250Aを超え400A以下 | 2.0 A/mm²以下 | |
| 400Aを超え630A以下 | 1.7 A/mm²以下 | 大容量では放熱が効きにくい |
JIS C 8480:2016 が示す母線の電流密度の上限
125A以下
3.0 A/mm²以下
125Aを超え250A以下
2.5 A/mm²以下
250Aを超え400A以下
2.0 A/mm²以下
400Aを超え630A以下
1.7 A/mm²以下
あわせて、材料の面取りや成形のための電流密度の増加は+5%まで許容されるという裕度も示されています。ただしこれは盤の母線という前提の規定であり、蓄電池やEVのように前提が違う用途へそのまま持ち込めるものではありません。
たとえば板厚6mm×幅50mm(断面積300mm²)に幅11mmの長穴を1つ開けた場合、狭窄部は6×(50−11)=234mm²、減少率は22%です。1/2以下に十分入るため、この点だけでは通電上の問題になりません。
長穴による断面積の減り方(板厚6mmの例)
| ブスバー寸法 | 長穴の幅 | 狭窄部の断面積 | 減少率 |
|---|---|---|---|
| 6×30mm(180mm²) | 9mm | 126mm² | 30% |
| 6×40mm(240mm²) | 11mm | 174mm² | 28% |
| 6×50mm(300mm²) | 11mm | 234mm² | 22% |
| 6×50mm(300mm²) | 13mm×2列 | 144mm² | 52% |
長穴による断面積の減り方(板厚6mmの例)
6×30mm(180mm²)に幅9mmの長穴1つ
狭窄部126mm² / 減少率30%
6×40mm(240mm²)に幅11mmの長穴1つ
狭窄部174mm² / 減少率28%
6×50mm(300mm²)に幅11mmの長穴1つ
狭窄部234mm² / 減少率22%
6×50mm(300mm²)に幅13mmの長穴を2列
狭窄部144mm² / 減少率52%。同一断面に2列は要注意
注意:同じ断面に穴を2つ並べると効いてくる
幅の広いブスバーでボルトを2本並べる設計は珍しくありませんが、同一断面に長穴を2列置くと欠損が足し算になり1/2に近づきます。上表の最後の行は52%で考慮不要の範囲を外れます。ボルト位置を通電方向にずらす、幅を広げる、板厚を上げるなどで対応します。
要点:1か所の長穴なら減少率2〜3割で収まる。同一断面に2列並べたときだけ要注意。
接触信頼性は「面」で決まる
締結部の接触信頼性は、穴の形状ではなく「ボルトで押し付けられている面の状態」で決まります。ボルトの役割は電流を通すことではなく、面と面を押し付けて実接触面積を作ることです。長穴でも必要な面圧が加わっていれば、丸穴と同等の接触抵抗が得られます。
締結部で電流が流れる経路
ボルト
│
┌───┴───┐ ← 座金が荷重を面に分散
│ ブスバーA │
╞═══════╡ ← 電流の通り道(面接触)
│ ブスバーB │
└───────┘
接触面で確認すること
- 重ね代がボルト径に対して足りているか
- 面が平らか(反り・打痕・バリがないか)
- 酸化被膜・油分が残っていないか
- 座金が長穴をまたいで荷重を面に伝えているか
現場で最も差が出るのは面の清浄度と平面度です。バリ・打痕・酸化はいずれも実接触面積を減らします。長穴では位置調整で面をこすることがあるため、組付け直前に接続面を清浄にする手順を決めておくと安定します(加工技術)。
要点:電流はボルトではなく面を通る。面の清浄度と平面度が接触抵抗を決める。
座金とボルトの選び方
長穴の締結で最も重要な部品は、長穴をまたいで荷重を接触面に伝える平座金です。座金の外径が小さいと荷重が穴のふちに集中し、接触面に必要な面圧が行き渡りません。長穴では丸穴より一段大きい座金を選ぶのが原則です。
座金の選び方
- 平座金は長穴の幅を十分にまたぐ外径を選ぶ
- 薄い座金は変形して荷重が偏るため、厚みのあるものを使う
- ボルト側・ナット側の両方に入れる
やってはいけない組み合わせ
- 長穴にばね座金だけを当てる(荷重が集中する)
- ボルト頭を直接長穴に当てる
- 座金の外径が長穴の幅と同程度
- 穴のふちのバリを残したまま締める
注意:ばね座金は平座金の代わりにならない
ばね座金(スプリングワッシャ)は緩み対策の部品で、荷重を面に分散する役割は平座金が担います。長穴にばね座金だけを当てると線接触で穴のふちを押し、銅がへたって面圧が落ちます。「平座金+ばね座金」のように、荷重分散と緩み止めを別の部品で受け持たせる構成にしてください。
コツ:大きい平座金は「電気的にも」効く
平座金の外径を大きくすると荷重が広い範囲に伝わり、有効な接触面積が増えて接触抵抗が下がります。長穴では、座金の選定が接触信頼性に最も効く箇所です。
要点:平座金で荷重を分散、ばね座金で緩み止め。役割を混ぜない。
締め付けトルクと緩みの管理
締め付けトルクは、機器メーカーや盤メーカーの指定値を最優先し、指定がない場合はボルトの呼び径と強度区分に応じた一般的な目安を基準にします。強度区分・潤滑の有無・座面の状態で適正値は変わるため、下表の値は出発点として使ってください。
締め付けトルクの考え方(鋼製ボルトの一般的な目安)
| 呼び径 | 一般的な目安 | 長穴で追加確認すること |
|---|---|---|
| M8 | 約25〜30N・m | 平座金の外径が長穴幅をまたいでいるか |
| M10 | 約44〜59N・m | 座金の厚みが荷重で変形しないか |
| M12以上 | 強度区分により大きく変わる | 銅母材のへたり(クリープ)を見込むか |
締め付けトルクの考え方(鋼製ボルトの一般的な目安)
M8
約25〜30N・m。平座金が長穴幅をまたいでいるか確認
M10
約44〜59N・m。座金の厚みが荷重で変形しないか確認
M12以上
強度区分で大きく変わる。銅のへたりを見込むか判断
注意:トルクを上げれば接触が良くなるわけではない
面圧を上げると接触抵抗は下がりますが、過大なトルクは銅母材を塑性変形させ、長期的にはかえって面圧が落ちます。銅は鋼より軟らかく、締結部の荷重で徐々にへたる(応力緩和)性質があります。増し締めの要否も含め、機器側の指定に従ってください。
面圧が落ちて接触抵抗が上がると発熱し、熱膨張と収縮の繰り返しでさらに緩みます。サーモグラフィで他相より温度が高い締結部を早く見つけるのが実務的な対策です。
要点:指定トルクが最優先。締めすぎは銅がへたり、逆に緩む。
熱膨張の逃げとして使う場合
長穴を熱伸縮の逃げとして使う場合は、「どの締結部を固定し、どこを動かすか」を先に決めます。片側を丸穴で固定し、反対側を長穴にして伸びを逃がすのが基本です。
固定側と可動側の分け方
[機器A]───────────────[機器B]
丸穴 長穴
(固定) (伸びを逃がす)
※両端を長穴にすると位置が定まらない。
片側は固定にする。
銅の線膨張係数は概ね17×10⁻⁶/℃で、長さ1mのブスバーは50℃の温度上昇で約0.85mm伸びます。数十cmの区間なら無視できることも多いですが、長い直線区間ではこの伸びが締結部やがいしに力として加わります。
銅ブスバーの熱伸び量の目安(温度上昇50℃の場合)
| 区間長 | 伸び量の目安 | 逃げの必要性 |
|---|---|---|
| 300mm | 約0.26mm | 公差内で吸収できることが多い |
| 1,000mm | 約0.85mm | 長穴での逃げを検討 |
| 3,000mm | 約2.6mm | 長穴または可撓継手を検討 |
| 6,000mm | 約5.1mm | 可撓継手・エキスパンション部の設置を検討 |
銅ブスバーの熱伸び量の目安(温度上昇50℃)
区間長300mm
約0.26mm。公差内で吸収できることが多い
区間長1,000mm
約0.85mm。長穴での逃げを検討
区間長3,000mm
約2.6mm。長穴または可撓継手を検討
区間長6,000mm
約5.1mm。可撓継手・エキスパンション部を検討
注意:長穴で逃がすには「滑れる締結」が必要
長穴があっても、規定トルクで締め上げていればブスバーは滑りません。繰り返す伸縮を長穴の滑りで吸収させる設計は避け、可撓継手(フレキシブル導体)やエキスパンション部を使ってください。滑りを前提にすると接触面が摩耗します。
要点:長穴は据付時の逃げが主用途。繰り返す伸縮は可撓継手で受ける。
2026年の大電流化で変わってきた点
最新の状況(2026年8月時点)
2026年はAI・データセンター向けの電力設備投資と蓄電池の導入拡大が続き、国内の銅建値は2026年8月時点で1トンあたり230万〜240万円台の過去最高水準で推移しています。この局面で増えているのが「締結部の点数が多い大電流構成」です。蓄電池ラックやPDUのように機器を並べてDC母線でつなぐ構成では締結部が数十か所に及び、1か所の接触不良が全体の発熱と効率低下につながります。
締結点が多い構成では、現場での位置調整を長穴に頼るのか、加工精度で合わせるのかを図面段階で切り分けておくと、点検計画まで立てやすくなります。
コツ:全部を長穴にしない
締結点の多い構成では、すべてを長穴にするより「基準の1か所を丸穴で決め、残りを長穴で吸収する」ほうが組立が速くなります。基準がないと全体が動き、かえって位置決めに時間がかかります。図面に基準穴を明示しておくと現場の判断が要らなくなります。
要点:締結点が増える構成ほど、基準穴と長穴の役割分担が効く。
図面での指示と当社の対応範囲
長穴の図面指示は、「穴幅・全長(または中心間距離)・端部R・基準からの位置・逃がす方向」の5点を書けば解釈のぶれが出ません。「穴幅×全長」か「穴幅×中心間距離」かは表記が分かれるため、寸法の起点を明示してください。
長穴の図面に書いておく項目
- 穴幅 … ボルト径に対する隙間を含めて指定
- 全長または中心間距離 … どちらの寸法かを明記する
- 端部の形状 … 半円(小判形)か、角のあるスロットか
- 位置 … 基準面・基準穴からの寸法。端からの距離(縁距離)も確認
- 逃がす方向 … 通電方向に対する長手の向き
- 座金の想定 … 外径が分かれば伝える(穴幅の判断材料になる)
当社の長穴加工の対応範囲
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対応材料 | 銅ブスバー、銅棒、アルミ |
| 板厚 | 3mm〜20mm |
| 丸棒 | φ10〜φ55 |
| 数量 | 1個から100個程度の小ロットに対応 |
| 加工方法 | プレス加工 / マシニング加工 / 旋盤加工 |
| 寸法公差 | 一般公差の範囲内(相談で対応) |
| 主な用途 | 変圧器・制御盤・配電盤 |
当社の長穴加工の対応範囲
対応材料 / 板厚
銅ブスバー・銅棒・アルミ / 板厚3mm〜20mm(丸棒はφ10〜φ55)
数量
1個から100個程度の小ロットに対応
加工方法
プレス加工 / マシニング加工 / 旋盤加工
寸法公差 / 用途
一般公差の範囲内(相談で対応) / 変圧器・制御盤・配電盤部品
当社では変圧器・制御盤・配電盤向けの長穴加工を1個からの小ロットでも受けています。穴幅や逃がし量が未定の段階でも、相手機器の条件をお伺いして案をお出しできます(寸法の確認方法は品質管理のページで紹介しています)。
要点:穴幅・全長・端部R・位置・向きの5点を書く。決まっていなければ相談で決められる。
よくあるご質問
長穴にすると銅ブスバーの許容電流は下がりますか?
長穴を通電方向に向けて1か所開ける場合、最も狭くなる断面の面積は同じ径の丸穴と変わらないため、実用上の影響は小さいです。配電盤の規格(JIS C 8480:2016)を根拠に、穴による断面積の減少が全体の1/2以下なら考慮しなくてよいという考え方が実務で使われています。ただし同一断面に2列並べると欠損が足し算になるため確認が必要です。
長穴の締結部で緩みや発熱が起きやすいのは本当ですか?
長穴そのものが原因ではなく、座金の選定と締め付け管理が原因です。長穴の幅を十分にまたぐ外径の平座金を使い、荷重を接触面に分散させれば、丸穴と同等の接触信頼性が得られます。長穴にばね座金だけを当てると荷重が穴のふちに集中し、銅がへたって面圧が落ちます。
長穴に使う平座金はどのくらいの大きさが必要ですか?
長穴の幅を十分にまたいで、荷重を接触面へ伝えられる外径が必要です。丸穴用の標準座金では外径が足りないことがあるため、一段大きい平座金や角座金を選びます。座金が薄いと締め付けで変形して荷重が偏るため、厚みのあるものを使ってください。
熱膨張の逃げは長穴だけで足りますか?
据付時の位置合わせやゆっくり進む変位には有効ですが、通電のたびに繰り返す伸縮を長穴の滑りで吸収させる設計は避けてください。規定トルクで締めれば滑らず、滑らせれば接触面が摩耗します。銅は1mあたり温度上昇50℃で約0.85mm伸びるため、長い区間では可撓継手やエキスパンション部の併用を検討します。
長穴は1個からでも加工してもらえますか?
対応できます。当社では銅ブスバー(板厚3mm〜20mm)・銅棒(φ10〜φ55)・アルミの長穴加工を、1個から100個程度の小ロットで受けています。プレス加工・マシニング加工・旋盤加工を使い分けて、数量と精度に合う方法で製作します。
