設計・計算

ブスバーが鉄板を貫通する部分の渦電流発熱、原因と非磁性対策

銅ブスバー(バスバー)は電流が流れるだけの単純な部品に見えますが、配電盤や変圧器の鉄製の隔壁・外箱を貫通する箇所では、ブスバー自体ではなく周囲の鉄板が発熱するという、見落とされがちなトラブルが起きます。原因は渦電流とヒステリシス損で、各相を別々の穴に通すと起きやすく、3相をまとめて通す・スリットを入れる・非磁性材に変えるという3つの対策で抑えられます。この記事では、発熱の原理と、設計・施工段階で確認すべき点を整理します。

銅ブスバー
渦電流
ヒステリシス損
非磁性
鉄板貫通部
配電盤
変圧器

なぜブスバーが鉄板を貫通すると発熱するのか

交流電流が作る磁束が鉄板を鎖交し、鉄板の中に渦電流とヒステリシス損が生じて発熱します。各相を別々の穴に通すと、鉄板がその相を囲む「輪」になるため特に起きやすくなります。

前提:渦電流損とヒステリシス損

交流電流が流れる導体のまわりには、電流に応じて向きが変わる磁束ができます。この磁束の通り道(磁路)に強磁性体である鉄板があると、鉄板の中に電圧が誘導され、鉄板内部を還流する渦電流が流れます。さらに鉄の磁区(磁気的な向きを持つ微小な領域)が磁束の向き変化のたびに反転することでヒステリシス損も生じます。どちらも電気エネルギーが熱に変わる現象で、変圧器の鉄心で起きる「鉄損」と同じ原理です。

単相のブスバー1本が、鉄板に開けた丸穴を単独で貫通している状態を考えると、その鉄板はブスバーを中心とした「1ターンの輪」になります。ブスバーに流れる交流電流が作る磁束がこの輪を鎖交するため、輪の中(鉄板自体)に電流が誘導されます。これは単心ケーブルを鉄製の管やサドルに通したときに起きる現象と同じ考え方で、電線やケーブルの分野では古くから知られている問題です。ブスバーでも、相ごとに別の穴を通す配置であれば同じことが起きます。

鉄板の断面で見ると

【相ごとに別穴:発熱しやすい】      【3相一括で1つの開口:発熱しにくい】

   鉄板                              鉄板
 ┌───────────────┐             ┌───────────────┐
 │  ○R   ○S   ○T  │             │ ┌───────────┐ │
 │  │    │    │   │             │ │  R  S  T  │ │
 └──┼────┼────┼───┘             │ └───────────┘ │
    │    │    │                 └───────────────┘
 各穴が1相を単独で囲む              1つの開口を3相が共有し、
 → 鉄板が1ターン短絡の輪になる      各相の磁束が打ち消し合う
  

右側のように3相のブスバーを1つの大きな開口にまとめて通すと、各相の電流がほぼ同時に逆位相を含む形で流れているため、鉄板を鎖交する正味の磁束が小さくなり、発熱は大きく抑えられます。これは単心ケーブルの配管で「3心一括で1本の管に通す」と発熱しにくいとされているのと同じ理屈です。

実際にどんな場面で問題になるか

変圧器や配電盤の内部隔壁、盤の外壁、建屋の壁などを銅板ではなく鉄板で仕切っている箇所すべてが対象になります。盤設計の図面段階で見落とされやすいポイントです。

盤内でよくある場面

  • 配電盤・キュービクル内で、区画を仕切る鋼板にブスバーを通す貫通部
  • 変圧器の外箱(鉄製タンク)を一次・二次のブスバーが貫通する部分
  • 盤間を接続するダクト・バスダクトの仕切り板

建屋・設備側でよくある場面

  • 受変電室の壁・床を鉄骨や鋼製ピットでまたぐ引き込み部
  • 屋外から屋内へブスバーやバスダクトを引き込む外壁貫通部
  • 蓄電池・PCS盤の筐体パネルをDC母線が貫通する部分

特に大電流化が進んでいる蓄電池・データセンター向けの設備では、貫通部を通る電流値自体が大きいため、同じ構造でも発熱量が大きくなりやすい点に注意が必要です。設計段階で「鉄板を貫通するブスバーが何本・何相あるか」を図面上で確認する習慣をつけることが、トラブルの予防につながります。

注意:発熱は貫通部だけにとどまらない

鉄板自体の発熱は、接触する周辺の絶縁物(パッキン・シール材・ケーブルの被覆など)の劣化や、鋼材自体の強度低下につながります。ブスバー本体や接続部の発熱点検(サーモグラフィ診断など)では見落とされやすい箇所なので、点検対象に鉄製の貫通部も含めておくと安心です。

対策①:3相を一括で貫通させる

最もコストをかけずに効果が見込める対策です。3相分のブスバーを1つの大きな開口にまとめて通すことで、鉄板を鎖交する磁束を打ち消し合わせます。

新規設計であれば、まず検討すべきはこの方法です。相ごとに丸穴を分けるのではなく、3相がまとまって通る1つの矩形(または長円)の開口を設けます。鉄板を加工し直すだけで済み、材料を変更する必要がないため、設計変更としては小規模です。

コツ:開口部の設計で確認すること

  • 開口が大きくなる分、鉄板の強度(たわみ・振動)への影響を構造計算で確認する
  • 盤の防水・防塵等級(IP等)が必要な場合は、開口部をゴムブッシングやパテで塞ぐ処理を合わせて設計する
  • 絶縁距離・沿面距離が、相間および相と鉄板の間で確保できているかを確認する

対策②:鉄板にスリットを入れる

鉄板を交換できない既存設備の改修で使われる方法です。穴と穴の間に切れ目(スリット)を入れ、鉄板の中に閉じた電流の輪ができないようにします。

相ごとに穴が分かれたままでも、各穴から鉄板の外周(または共通の基準点)に向けてスリットを入れることで、鉄板内を一周する電流の経路を物理的に断つことができます。これにより、穴を1相が単独で囲む「1ターン短絡」の状態を避けられます。既設の盤・既設の壁を大きく作り直さずに対策できる点がメリットです。

注意:スリット加工での失敗しやすい点

  • スリットの隙間が狭すぎると、経年の振動や熱膨張で接触し、効果が失われることがある
  • 鉄板の強度・剛性が下がるため、スリットを入れすぎると別の問題(たわみ・共振)を招く
  • 感電・接触防止の観点から、スリット部にも絶縁カバーや防護処置が必要になる場合がある

スリット加工は加工技術の中でも精度と強度のバランスが問われる作業で、どこにどれだけの幅・長さのスリットを入れるかは、磁束を断つ効果と鉄板強度の両方を見ながら決める必要があります。

対策③:非磁性材に置き換える

貫通部の鉄板そのものを、磁気的な性質を持たない材料に置き換える方法です。原理的な発熱の原因を取り除けますが、材料費と強度の見直しが必要になります。

鉄(強磁性体)でなければ、そもそも磁束が強く通り抜けることがないため、渦電流・ヒステリシス損による発熱は小さくなります。貫通部だけを非磁性材のインサートに交換する方法と、仕切り板全体を非磁性材に変更する方法があります。

貫通部に使われる代表的な非磁性材料

材料 磁気的性質 強度・コストの傾向
アルミニウム 非磁性 軽量・加工しやすいが、鉄に比べ強度は劣る
オーステナイト系ステンレス(SUS304等) 非磁性(加工により弱磁性を帯びることあり) 強度・耐食性に優れるが材料費は高め
真鍮 非磁性 加工性がよく小物部品向き。強度は中程度
FRP(繊維強化プラスチック) 非磁性(絶縁体) 絶縁も兼ねられるが、機械強度は金属より低い

貫通部に使われる代表的な非磁性材料

アルミニウム

非磁性 / 軽量・加工しやすいが強度は鉄より劣る

オーステナイト系ステンレス(SUS304等)

非磁性(加工で弱磁性を帯びることあり) / 強度・耐食性に優れるが材料費は高め

真鍮

非磁性 / 加工性がよく小物向き、強度は中程度

FRP

非磁性・絶縁体 / 機械強度は金属より低い

補足:ステンレスの「非磁性」は条件付き

オーステナイト系ステンレスは基本的に非磁性ですが、プレス・曲げなどの冷間加工を受けると、組織の一部が変化してわずかに磁性を帯びることがあります。貫通部の材料として採用する場合は、加工後の状態で磁気的な性質を確認しておくと安心です。

どの対策を選ぶか、設計時の確認手順

新設なら3相一括貫通を基本とし、スペースや構造上できない場合に非磁性材、既設設備の改修ではスリット加工を検討する、という順番で考えると判断しやすくなります。

設計・改修時に確認する手順

  • 鉄板を貫通するブスバー(バスバー)が何本・何相あるかを図面で洗い出す
  • 新設設計なら、まず3相を1つの開口にまとめられないか構造・防水条件と合わせて検討する
  • 開口をまとめられない場合(スペース制約・既存盤の改修など)は、非磁性材への変更を検討する
  • 材料変更が難しい既設設備は、鉄板へのスリット加工で磁路を断つ方法を検討する
  • 対策後は、通電状態でのサーモグラフィ点検などで貫通部の温度を確認する

2026年時点の状況

蓄電池・データセンター向けなど大電流のブスバーを使う設備が増えている2026年現在、貫通部の鉄板発熱は、ブスバー本体の設計(断面積・許容電流)ほどには注目されない論点ですが、電流値が大きくなるほど発熱量も大きくなるため、設計レビューの項目として改めて確認しておく価値があります。電線・ケーブル分野で単心ケーブルの鉄管貫通に非磁性管を使うという考え方が以前から内線規程などで示されており、同じ考え方をブスバーの貫通部にも当てはめて確認するのが実務的です。

当社では、こうした貫通部のブスバー形状や、非磁性材を使ったインサート部品の品質管理も含めて加工の相談を受けています。鉄板の仕様が決まっていない段階でも、盤の構造図があれば相談可能です。

よくあるご質問

ブスバーが鉄板を貫通する部分で熱くなるのはなぜですか?

交流電流が作る磁束が鉄板を鎖交し、鉄板の中に渦電流とヒステリシス損が生じて発熱するためです。特に各相を別々の穴に通している場合、鉄板がその相を単独で囲む輪のようになり、発熱が大きくなりやすくなります。

3相を1つの穴にまとめて通すだけで発熱は防げますか?

効果があります。3相を一括で貫通させると各相の磁束が打ち消し合い、鉄板を鎖交する正味の磁束が小さくなるためです。ただし開口が大きくなる分、鉄板の強度や防水・防塵処理の見直しが必要です。

既存の鉄板を交換せずにできる対策はありますか?

穴と穴の間に切れ目(スリット)を入れ、鉄板内に閉じた電流の輪ができないようにする方法があります。材料を交換しない分、既設設備の改修で使いやすい対策です。ただし鉄板の強度低下や、スリット部の絶縁処理には注意が必要です。

非磁性材料にはどのようなものがありますか?

アルミニウム、オーステナイト系ステンレス、真鍮、FRPなどが代表例です。それぞれ強度・加工性・コストの傾向が異なるため、貫通部に求められる強度や絶縁性に応じて選びます。

貫通部が発熱しているかどうかはどう確認すればよいですか?

通電状態でのサーモグラフィ診断が一般的です。ブスバーの接続部だけでなく、周囲の鉄板や仕切り板の温度も点検対象に含めることで、見落としを防げます。

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