材料・規格

IEC 61439とJISの違い―盤の母線設計に効く差分

輸出向けの配電盤・分電盤を設計するとき、「IEC 61439」と国内のJIS/JEM規格の関係が分からず、母線(ブスバー・バスバー)の設計をどちらの考え方で固めればよいか迷う場面があります。結論として、IEC 61439はアセンブリ全体の設計検証プロセスを規定する規格であり、JIS/JEM各規格が定める電流密度や離隔距離といった個別の数値基準とは「規定の粒度」が異なります。この記事では、2026年時点のIEC 61439シリーズの構成と、輸出向け盤の母線設計で確認すべき差分を整理します。

IEC 61439
JIS
配電盤
母線設計
設計検証
輸出向け盤
ブスバー(バスバー)

IEC 61439とは何か

IEC 61439とは、低電圧開閉装置及び制御装置アセンブリ(配電盤・分電盤・制御盤など)の一般的な定義・使用条件・構造要件・技術特性・検証要件を定める国際規格です。定格電圧1,000V AC以下(または1,500V DC以下)のアセンブリに適用され、複数のパートに分かれています。

前提:シリーズ構成(2026年時点の最新版)

母体となるIEC 61439-1(一般規則)は2020年発行のEdition 3.0が最新で、2023年に正誤票(Cor.2)が出ています。分電盤を扱うIEC 61439-3はEdition 2.0:2024が最新版です。当社が確認した範囲での最新エディションであり、実際の発注では日本規格協会(JSA)や取引先で最新版を再確認してください。

IEC 61439シリーズの構成(母線設計に関わる範囲)

パート 対象 母線設計との関わり
-1 一般規則 検証方法(型式試験・比較設計・計算)の枠組み
-2 電源開閉装置アセンブリ 受配電盤に近い用途。母線の温度上昇・短絡強度の検証
-3 一般人が使用する分電盤 住宅・非専門者向け。母線の防護要求が厳しめ
-4 建設現場用アセンブリ 可搬・仮設用途の特定要求事項
-5 配電用アセンブリ 屋外・大容量配電向け
-6 母線接続システム バスウェイ・バスダクトに近い接続構造を規定
-7 特殊利用分野用 EV充電スタンド等の特定用途

IEC 61439シリーズの構成(母線設計に関わる範囲)

-1 一般規則

検証方法の枠組みを規定

-2 電源開閉装置アセンブリ

母線の温度上昇・短絡強度の検証

-3 分電盤(一般人使用)

母線の防護要求が厳しめ

-4 建設現場用

可搬・仮設用途の特定要求

-5 配電用アセンブリ

屋外・大容量配電向け

-6 母線接続システム

バスウェイに近い接続構造

-7 特殊利用分野

EV充電スタンド等の特定用途

IEC 61439は単一の規格ではなく、用途別に分かれたシリーズであり、輸出先の盤の使われ方によって参照すべきパートが変わります。

旧規格(IEC 60439)から何が変わったか

2009年に旧規格のIEC 60439からIEC 61439へ改訂された際、母線設計の実務に直結する変更が2点ありました。1つは「型式試験報告書」に代わって「設計検証書」という考え方が導入されたこと、もう1つは設計者(Original Manufacturer)と製造者(Assembly Manufacturer)の責任区分が明記されたことです。

注意:「型式試験」だけでは通らないケースがある

旧規格の感覚で「型式試験の成績書があれば良い」と考えると、IEC 61439の要求と食い違うことがあります。IEC 61439では、試験による検証(Testing)のほかに、既に検証済みの設計との比較による検証(Comparison with a reference design)、計算による検証(Calculation)という複数のルートが用意されており、母線の温度上昇や短絡強度もこの3ルートのいずれかで検証する構成になっています。どのルートで検証されたアセンブリなのかを、発注前に確認しておく必要があります。

IEC 61439では母線の温度上昇・短絡強度の検証手段が試験だけでなく比較・計算にも広がった点が、旧規格からの実務上の大きな変化です。

JIS/JEMとの関係はどうなっているか

国内で配電盤・分電盤の母線に関わる要求事項は、ブスバーの電流密度を定める規格や、キュービクル式高圧受電設備の母線要求事項を定める規格など、用途ごとに個別の日本産業規格(JIS)が対応しています。これに対しIEC 61439は、個々の数値基準というより、アセンブリ全体をどう検証して市場に出すかという「プロセス」を規定している点が異なります。

日本規格協会(JSA)はIEC 61439シリーズの各パートを日本語版として発行・頒布していますが、国内の低圧開閉装置そのものの规格はJIS C 8201シリーズ(IEC 60947系に対応)が中心であり、アセンブリ全体を包括するJIS番号が実務でそのまま使われているとは限りません。輸出先(EU向けなど)でIEC 61439への適合が求められる場合は、国内のJIS/JEMの考え方だけで盤を組んでも、検証書類としては別途IEC 61439側の設計検証が必要になる、という位置づけで理解しておくと実務上の食い違いが減ります。

補足:高圧側でも国際規格への整合が進んでいる

低圧のIEC 61439とは別の話ですが、高圧配電盤の分野では日本電機工業会規格JEM 1425が2025年3月で廃止され、国際規格IEC 62271-200に整合したJIS C 62271-200へ移行しています。低圧・高圧いずれの領域でも、国内規格が国際規格の考え方に合わせていく流れが2026年時点で進んでいます。

JISは個別の数値基準、IEC 61439はアセンブリ全体の検証プロセスを規定するため、両者は代替関係ではなく併せて確認する関係にあります。

国内規格とIEC 61439の対応イメージ

どの国内規格がIEC 61439のどのパートに近い役割を持つのかを、母線設計で参照する頻度が高いものに絞って整理すると次のようになります。あくまで「役割の近さ」の整理であり、条文が1対1で対応しているわけではない点に注意してください。

国内規格とIEC 61439の役割の近さ(母線設計の観点)

国内側の規格 扱う内容 IEC 61439側で近い役割
JIS C 8480 配電盤・分電盤の母線電流密度 -1/-2の温度上昇検証の数値的な裏付け
JIS C 4620 キュービクル式高圧受電設備の母線要求 低電圧域は対象外(高圧側の個別要求)
JIS C 8201シリーズ 低圧開閉装置・制御装置(部品単体) アセンブリを構成する部品側の基準
JIS C 62271-200(旧JEM 1425) 高圧受電用アセンブリ 対象電圧が異なるため-1〜-7の対象外

国内規格とIEC 61439の役割の近さ(母線設計の観点)

JIS C 8480

母線電流密度→IEC側の温度上昇検証の裏付け

JIS C 4620

キュービクル母線要求(高圧・対象外)

JIS C 8201シリーズ

部品単体の基準

JIS C 62271-200(旧JEM 1425)

高圧アセンブリ(対象電圧が異なる)

母線の電流密度そのものの目安は、当社の別記事「品質管理」でも扱っている検査・トレーサビリティの考え方と合わせて、輸出案件では材料証明の残し方まで含めて発注前に取り決めておくと、後工程での確認の手間が減ります。

国内規格は個別項目の数値的な裏付けとして、IEC 61439は検証プロセスの枠組みとして、互いに補完し合う位置づけで確認するのが実務的です。

検証方法の違いが母線設計に効いてくる理由

母線設計の実務でIEC 61439が効いてくるのは、温度上昇と短絡強度の「検証のしかた」が設計の自由度に直結するためです。試験による検証しか認めない考え方だと、板厚や形状を変えるたびに実機での温度上昇試験が必要になります。一方IEC 61439の比較設計・計算による検証ルートを使えば、既に検証済みの母線構成との差分が小さいことを計算やルールで示せれば、都度の実機試験を減らせる場合があります。

検証ルートの選び方の目安 = 設計変更の大きさ ÷ 既存の検証済みデータの網羅度

コツ:検証ルートは発注前に加工会社と一緒に決める

母線の板厚・形状・支持方法を変更する場合、それが「比較設計で説明できる範囲の変更」か「新規の試験が必要な変更」かは、規格の文言だけでは判断しにくいことがあります。図面段階で加工会社と検証ルートの見立てを共有しておくと、後工程での手戻りを避けやすくなります。

母線の板厚・形状を検討する段階から検証ルート(試験・比較設計・計算)を意識すると、設計変更の可否を判断しやすくなります。

検証ルート3種の比較

IEC 61439-1が示す検証ルートは、それぞれ必要な準備と向く場面が異なります。母線の板厚や形状を新規に決める場合と、既存の実績がある構成から小さく変更する場合とで、選べるルートが変わってきます。

検証ルートの違い

検証ルート 必要な準備 向く場面
試験による検証 実機での温度上昇・短絡試験 新規構成・実績データが無い母線
比較設計による検証 検証済み設計との差分の説明 板厚・形状の変更が小さい場合
計算による検証 規格が認める計算式・係数 形状が計算式の適用範囲内の場合

検証ルートの違い

試験による検証

実機試験が必要。新規構成向け

比較設計による検証

検証済み設計との差分説明。小変更向け

計算による検証

規格の計算式・係数の範囲内なら可

母線の変更が「差分の説明」か「新規試験」かのどちらに当たるかを早い段階で見立てることが、輸出向け盤の納期を左右します。

輸出向け盤で確認しておきたいチェックリスト

輸出先でIEC 61439への適合が求められる盤を計画する場合、母線設計に関わる確認事項を先に洗い出しておくと手戻りが減ります。

発注・設計前に確認すること

  • 適用されるIEC 61439のどのパート(-1〜-7)が指定されているか
  • 母線の温度上昇・短絡強度をどの検証ルート(試験/比較設計/計算)で示す想定か
  • 設計者(Original Manufacturer)と製造者(Assembly Manufacturer)のどちらが検証責任を負う体制か
  • 既存の検証済み設計(参照設計)が社内・取引先にあるか、無い場合は新規試験の日数を見込む
  • 国内向けのJIS/JEM基準(電流密度・離隔距離など)と、輸出先の要求が両方満たせる寸法になっているか

輸出向け盤では、国内のJIS/JEM基準を満たすだけでなく、IEC 61439側の検証ルートと責任区分を先に確認しておくことが手戻りを減らす近道です。

よくあるご質問

IEC 61439はJISの代わりになりますか。

代わりにはなりません。JIS/JEM各規格は電流密度や離隔距離など個別の数値基準を定めるのに対し、IEC 61439はアセンブリ全体をどう検証するかという手続きを定めた規格です。輸出先でIEC 61439への適合が求められる場合、国内基準を満たした上で別途IEC 61439側の設計検証が必要になります。

IEC 61439とIEC 60439の違いは何ですか。

2009年の改訂で、「型式試験報告書」に代わり「設計検証書」という考え方が導入され、試験・比較設計・計算という複数の検証ルートが認められるようになりました。また設計者と製造者の責任区分が明記された点も大きな変更です。

母線の板厚を変更するとき、必ず試験が必要ですか。

必ずではありません。IEC 61439では試験による検証のほか、既に検証済みの設計と比較する検証、計算による検証というルートも認められています。変更の大きさと既存データの網羅度によって、試験を都度行わずに済む場合があります。どのルートが使えるかは加工会社・検証機関と事前に相談することをおすすめします。

IEC 61439に対応するJIS番号はありますか。

日本規格協会(JSA)がIEC 61439シリーズの各パートを日本語版として発行・頒布していますが、国内の低圧開閉装置そのものの規格はJIS C 8201シリーズ(IEC 60947系)が中心です。アセンブリ全体を包括する形でJIS番号がそのまま実務に使われているとは限らないため、輸出案件では取引先や規格協会に最新の対応関係を確認するのが確実です。

高圧配電盤にもIEC 61439は関係しますか。

IEC 61439シリーズは定格電圧1,000V AC以下(1,500V DC以下)の低電圧アセンブリが対象で、高圧配電盤は対象外です。高圧側では、日本電機工業会規格JEM 1425が2025年3月で廃止され、国際規格IEC 62271-200に整合したJIS C 62271-200へ移行しています。低圧・高圧どちらも国際規格に整合していく流れは共通しています。

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