設計・計算

ブスバーの熱解析(CAE)でわかること|温度上昇試験との使い分け

銅ブスバー(バスバー)の温度上昇は、計算式による見積りと実機での温度上昇試験の2つで確認するのが基本ですが、形状が複雑な盤内配置や、試作前に設計の当たりを付けたい場面では、コンピュータ上で発熱・放熱を再現する熱解析(CAE)という第3の手段があります。この記事では、CAEで分かること・分からないこと、計算式・試験との役割分担、CAEを依頼する際に必要な入力条件を整理します。2026年時点のIEC 61439-1の温度上昇限度値にも触れます。

銅ブスバー
熱解析
CAE
温度上昇
IEC 61439
電磁界解析
盤内設計

熱解析(CAE)とは何をする手段か

熱解析(CAE)とは、電流による発熱と周囲への放熱をコンピュータ上で再現し、ブスバー各部の温度分布を事前に予測する解析手法です。

ブスバーの発熱量は電流の2乗と抵抗の積(ジュール熱)で決まり、放熱は対流・放射・伝導の組み合わせで決まります。手計算の式は断面全体を一様な発熱体として扱いますが、実際の盤内では分岐部・曲げ部・端子接続部で電流密度が偏り、周囲の部材配置によって熱だまりができる箇所も出てきます。CAEは、この分布を3次元モデル上で数値的に解くことで、どこが最も高温になりやすいかを形状ごとに確認できる手段です。

前提

多くの事例では、電磁界解析でブスバー各部のジュール損失(発熱量の分布)を求め、その結果を熱源として熱流体解析に渡す「電気・熱連成解析」の形で行われます。発熱源の精度が、そのまま温度分布の精度に直結します。

発熱と放熱の基本式

発熱量(W) = 電流(A)² × 抵抗(Ω)

手計算も熱解析も出発点は同じこの式です。違いは、手計算が「断面全体を均一な抵抗体」として扱うのに対し、CAEは曲げ部・分岐部・端子穴まわりなど、場所ごとに電流密度が変わる部分を細かく分割して、部分ごとの発熱量を積み上げて計算する点にあります。交流かつ高周波になるほど表皮効果で電流が導体表面に偏り、この差が顕著になります。

電気・熱連成解析の流れ

 [形状3Dデータ]
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       ▼
 電磁界解析 ── 電流密度・ジュール損失の分布を算出
       │
       ▼
 熱流体解析 ── 損失を熱源として温度分布を計算
       │
       ▼
 温度分布の予測値 ── 実機の温度上昇試験と照合・補正

計算式・試験・CAEの使い分け

計算式は初期の断面選定、CAEは形状が複雑な場合の事前検証、温度上昇試験は最終的な実機確認という役割分担で使うのが現実的です。

計算式(早見表・経験式)

  • 断面積から許容電流を素早く見積れる
  • 標準的な配置・単体導体を前提にしている
  • 盤内の熱だまりや分岐形状までは反映しにくい

温度上昇試験(実機測定)

  • 最も確実。認証・納入判定の根拠になる
  • 試作品・実機が必要で、形状変更のたびにやり直しになる
  • どこが高温か原因までは試験だけでは分かりにくい

CAEの位置づけ

CAEは、この2つの中間にあります。試作前に「どの形状案が有利か」を比較検討できる一方、試験に代わる公式な合否判定の根拠として扱えるかどうかは規格・製品ごとに判断が分かれます(後述)。

CAEで分かること・分からないこと

CAEは形状案どうしの温度差の比較に強く、絶対値の精度は境界条件の設定次第で変わる、という特性を理解した上で使うのが実務的です。

CAEで分かりやすいこと

  • 分岐部・曲げ部・端子接続部など、断面が一様でない箇所の温度分布の偏り
  • 複数枚並列時の電流分担の偏りと、それによる発熱差
  • 支持物・隣接部材の配置を変えたときの温度差の比較(A案とB案の優劣)
  • 接続部の接触抵抗を変化させた場合の感度(抵抗が想定より高いとどこまで温度が上がるか)

注意

自然対流の熱伝達率や表面放射率は、めっきの有無・表面の酸化状態・設置方向によって変わり、一般には自然対流で概ね5〜25W/m²K程度の範囲で設定されることが多い数値です。この境界条件の設定次第で絶対温度の予測値は変わるため、CAEの結果をそのまま「この製品は何度まで上がる」という確定値として扱わず、実機での温度上昇試験と照合して境界条件を補正する運用が現実的です。

表面処理と放射率の関係

無垢の銅表面は酸化の進み方で放射率が変わりやすく、解析事例では放射率を0.1程度に設定したものもあります。一方、黒色に近い塗装面や酸化が進んだ面は放射率が高くなり、同じ発熱量でも放射による放熱の寄与が変わります。銅ブスバーへのめっきの有無を解析条件に反映し忘れると、めっき品と無処理品で温度予測がずれる原因になります。

設計段階ごとの検証手段の位置づけ(イメージ)

計算式
初期検討・速い
CAE
形状確定前の絞り込み
温度上昇試験
最終確認・確実

右に行くほど手戻りのコストは大きくなる分、結果の確実性も上がるという関係にあります。

CAEに必要な入力条件

CAEを依頼・実施する際は、形状の3Dデータに加えて、電流値・周囲温度・表面処理・設置方向の4点を明確にする必要があります。

熱解析の依頼前に揃えておきたい条件

項目 内容 精度への影響
形状・寸法 板厚・幅・曲げR・穴位置・接続部形状の3Dデータ 大
通電電流 定格電流・交流/直流・周波数(表皮効果の有無) 大
周囲温度 盤内の想定周囲温度(規格上は35℃基準が多い) 大
表面処理 無処理・錫めっき・ニッケルめっきなど(放射率に影響) 中
設置方向・隣接物 水平/垂直設置、隣接する部材との離隔距離 中
接続部の抵抗 締結トルク管理値から想定される接触抵抗 中

熱解析の依頼前に揃えておきたい条件

形状・寸法

板厚・幅・曲げR・穴位置・接続部形状の3Dデータ(影響:大)

通電電流

定格電流・交流/直流・周波数(影響:大)

周囲温度

盤内の想定周囲温度・35℃基準が多い(影響:大)

表面処理

無処理・錫めっき・ニッケルめっきなど(影響:中)

設置方向・隣接物

水平/垂直設置、隣接部材との離隔(影響:中)

接続部の抵抗

締結トルク管理値からの想定接触抵抗(影響:中)

形状と電流条件が曖昧なまま依頼すると、解析結果の信頼性が大きく下がります。ブスバーとはの基本的な発熱の考え方と合わせて、設計段階で条件を固めてから依頼するのが望ましい進め方です。

IEC 61439-1の温度上昇限度と2026年の動き

IEC 61439-1では、非絶縁の銅・アルミ導体部の温度上昇限度は周囲温度35℃基準で70K、外部ケーブルを接続する端子部は55Kとされています。

最新の状況(2026年時点)

IEC 61439-1(第3版)に対する2026年の解釈指針では、設計計算によって温度上昇・空間距離・沿面距離を検証する「計算による検証(design-by-calculation)」ルートを使う場合、計算の前提条件・材料データシート・加工精度を示す記録を文書として残すことが求められる方向性が示されています。CAEの結果を設計根拠として使う場合も、入力条件と計算過程を後から追跡できる形で記録しておくことが、今後はより重要になります。

注意

CAEによる熱解析は、設計段階で形状案を絞り込むための有力な手段ですが、温度上昇試験そのものを省略できるかどうかは、適用する規格・製品区分・認証機関の判断によって異なります。「CAEで計算したから試験は不要」と一律に扱わず、個別案件ごとに確認してください。

盤内でCAEが向く場面・向かない場面

CAEは試作前の形状比較・原因切り分けに向き、最終的な合否判定や単純な標準形状の電流容量確認にはコストが見合わないことが多いです。

CAEが向く場面

  • 分岐・曲げが多く、どこが高温になるか予測しづらい複雑形状
  • 複数枚並列ブスバーの電流分担が偏っていそうな配置
  • 試験で想定外の高温箇所が出た後の原因切り分け
  • 試作前に複数の形状案を比較検討したいとき

CAEが向かない・過剰な場面

  • 単純な単体導体で、早見表・計算式の範囲に収まる標準条件
  • 認証・納入のための最終判定(試験が別途必要)
  • 解析の前提となる形状・電流条件がまだ固まっていない初期検討段階

CAEは解析ソフトと解析担当者の工数が必要になるため、形状・電流条件が固まっていない段階で依頼すると、条件変更のたびに解析をやり直すことになり、かえって工数がかさみます。社内に解析環境がない場合は、解析専門の会社やソフトメーカーのサービスを利用するのが一般的で、その場合も前述の入力条件(形状・電流・周囲温度・表面処理・設置方向)を先に固めておくほど、やり取りの往復が減ります。

コツ

複雑形状でも、まず銅ブスバーのメリットや計算式で大まかな断面積を決め、CAEは「この配置で熱だまりが出ないか」を確認する絞り込みの段階で使うと、解析の往復回数を抑えられます。

よくあるご質問

熱解析(CAE)だけで温度上昇試験を省略できますか

規格・製品区分・認証機関の判断によって異なるため、一律に省略できるとは言えません。CAEは試作前の形状検討・原因切り分けに有効な手段ですが、最終的な合否判定が必要な場合は、適用規格の要求に従って温度上昇試験の要否を個別に確認してください。

ブスバーの熱解析ではどんな境界条件を設定しますか

主な境界条件は、通電電流とその周波数、周囲温度、自然対流の熱伝達率(目安として5〜25W/m²K程度)、表面の放射率(めっきの有無で変わる)です。これらの設定値によって予測される絶対温度は変わるため、実機の温度上昇試験と照合して補正するのが一般的です。

CAEはどんな形で発熱量を求めていますか

多くの場合、まず電磁界解析でブスバー各部のジュール損失(電流密度の偏りによる発熱分布)を求め、その結果を熱源として熱流体解析に受け渡す「電気・熱連成解析」という手順で行われます。

IEC 61439-1での銅ブスバーの温度上昇限度はどのくらいですか

周囲温度35℃を基準として、非絶縁の銅・アルミ導体部で70K、外部ケーブルを接続する端子部で55Kが温度上昇限度とされています。具体的な適用条件は製品区分によって異なるため、設計時には該当する規格本文を確認してください。

複数枚並列のブスバーでCAEが特に役立つのはどんな場合ですか

並列枚数を増やしても電流が均等に分担されず、外側と内側の枚で発熱に偏りが出ることがあります。この偏りは手計算の早見表では把握しにくいため、CAEで電流分担と温度分布を確認し、枚数を増やす効果が頭打ちになっていないかを検証する場面で役立ちます。

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