銅部品のカーボンフットプリントとは|CO2排出量の算定と開示対応
銅部品のカーボンフットプリント(CFP)とは、原料の採掘・製錬から加工・出荷までの工程で排出される温室効果ガスをCO2量に換算して示す指標です。結論から言うと、銅部品のCO2排出量の大半は「地金の製錬段階」で決まり、自社での曲げ・穴あけ・めっきなどの加工工程の排出量は相対的に小さくなります。2026年は環境省・経済産業省のCFP表示ガイド運用や、取引先からのCFP提出依頼が増え始めた時期にあたります。この記事では、銅部品(銅ブスバー=バスバーを含む)のCO2排出量の考え方、算定に必要なデータ、取引先から開示を求められたときの対応手順を整理します。
カーボンフットプリント
CO2排出量
銅ブスバー
Scope3
CBAM
サプライチェーン
調達
この記事の内容
カーボンフットプリント(CFP)とは何か
カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)とは、製品の原材料調達から製造・流通・使用・廃棄に至るライフサイクル全体で発生する温室効果ガスの排出量を、CO2量に換算して1つの数値で示したものです。日本では2025年2月に環境省・経済産業省が連名で「カーボンフットプリント表示ガイド」を公表しており、義務化ではなく企業の自主的な取り組みを促す位置づけになっています。より前の2023年にも経済産業省・環境省が「カーボンフットプリントガイドライン」を公表しており、算定単位・システム境界(どこからどこまでを計算範囲とするか)・配分方法などの考え方が整理されています。
前提:CFPとScope1〜3の違い
CFPは「製品単位」のライフサイクル排出量を指すのに対し、Scope1〜3は「企業・事業所単位」の排出量区分です。部材メーカーがCFP開示を求められる場合、自社の加工工程の排出(Scope1・2相当)に加え、仕入れた地金の排出量(購入先のScope1・2=自社のScope3)まで合算して回答を求められることが多く、混同すると算定範囲を誤ります。
用語の整理(CFP・Scope1〜3)
| 用語 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|
| CFP | 製品1個・1トンあたり | ライフサイクル全体の排出量 |
| Scope1 | 自社単位 | 自社の燃料使用による直接排出 |
| Scope2 | 自社単位 | 購入した電力・熱の使用による間接排出 |
| Scope3 | 自社単位 | 仕入れ・輸送・廃棄など自社以外で発生する排出 |
用語の整理(CFP・Scope1〜3)
CFP(製品1個・1トンあたり)
ライフサイクル全体の排出量
Scope1(自社単位)
自社の燃料使用による直接排出
Scope2(自社単位)
購入した電力・熱の使用による間接排出
Scope3(自社単位)
仕入れ・輸送・廃棄など自社以外で発生する排出
部材メーカーがCFPを問われたとき、自社の加工分(Scope1・2相当)と仕入れた地金分(自社のScope3)は区別して集計する。
銅部品のCO2排出量はどこで決まるか
銅部品1個あたりのCO2排出量は、大きく「地金製錬」「自社加工」「輸送」の3段階に分かれ、量的には地金製錬段階が最も大きな比率を占めます。これは銅の製錬(鉱石から電気銅を取り出す工程)がエネルギー集約的な工程であるためです。
銅部品のCO2排出が発生する段階(考え方の整理)
| 段階 | 主な排出要因 | 相対的な比重 |
|---|---|---|
| 地金製錬(Cradle to Gate) | 鉱石の採掘・製錬エネルギー | 大きい |
| 自社加工(曲げ・穴あけ・めっき等) | 工場の購入電力・燃料 | 中〜小 |
| 輸送 | 地金・製品の運搬距離と手段 | 小〜中(距離次第) |
銅部品のCO2排出が発生する段階(考え方の整理)
地金製錬(Cradle to Gate)
鉱石の採掘・製錬エネルギー/比重:大きい
自社加工(曲げ・穴あけ・めっき等)
工場の購入電力・燃料/比重:中〜小
輸送
地金・製品の運搬距離と手段/比重:小〜中(距離次第)
銅部品のCO2排出量は、自社の加工工程よりも地金の製錬段階が大きな比重を占める。
コツ:リサイクル地金の効果
JX金属の試算では、リサイクル原料を使用した電気銅は、新地金に比べて1トンあたり約2〜3トンの温室効果ガス排出削減効果があるとされています(同社発表、2023年公表のCFP算定結果に基づく)。製錬段階の排出が大きいからこそ、地金の調達方法(新地金かリサイクル材か)がCO2排出量に与える影響も大きくなります。
算定に必要なデータの種類
CFPの算定は「排出量 = 活動量 × 排出原単位」という基本式の積み上げです。活動量(使用した電力量・輸送距離など)と、排出原単位(単位あたりの排出係数)の両方を工程ごとに集め、合計します。
補足:一次データと二次データ
自社の実測値(電力使用量・燃料使用量など)や、製錬メーカーが開示する電気銅のCFP値のように供給元から直接入手した数値を「一次データ」と呼びます。一次データが入手できない工程は、政府や業界団体が公表する平均的な排出原単位(二次データ)で代用しますが、取引先への回答では一次データの比率が高いほど信頼性が高いとみなされます。
二次データの代表例が、産業技術総合研究所などが整備する「IDEA(産業連関表ベースの排出原単位データベース)」です。自社や取引先で実測値が取れない工程について、品目ごとの平均的な排出原単位を参照できます。ただし二次データはあくまで平均値のため、算定結果の精度を上げたい場合は、取引量の多い材料・工程から順に一次データへ置き換えていくのが現実的な進め方です。
データの優先順位(精度を上げたい工程から)
- 1位:自社で実測した電力・燃料の使用量(一次データ)
- 2位:供給元(製錬メーカー・商社)が開示するCFP値・排出係数(一次データ)
- 3位:業界団体・公的機関が公表する平均的な排出原単位データベース(二次データ)
取引先からCFP提出を求められたときの対応手順
取引先からCFPの提出や排出量データの開示を求められた場合、まず「どの範囲(Scope)まで」「どの単位(製品1個あたりか、1トンあたりか)」を求められているかを確認することが最初の一歩です。
CFP開示を求められたときの進め方
- 要求元が求める算定範囲(Cradle to Gate/Cradle to Grave)と単位を確認する
- 使用した地金の種類(新地金/リサイクル材)と、可能であれば製錬メーカーが開示するCFP値を確認する
- 自社工場の購入電力量・燃料使用量など、加工工程の一次データを集計する
- 輸送距離・輸送手段(陸送・海運など)を確認する
- 一次データで埋まらない部分は、公的機関が公表する排出原単位データベースの数値で補う
- 算定根拠(使用した係数・データの出典)を明記して回答する。推測値はその旨を明示する
注意:出典のない数値を書かない
排出係数や排出量の数値は、出典を示せるものだけを使います。社内の感覚値や根拠不明な数値を取引先に提出すると、後日の監査や第三者検証で整合性が取れなくなるリスクがあります。不確かな部分は「概算」「未算定」と明記したうえで回答するのが安全です。
2026年の動向:なぜCFPを問われる機会が増えているか
2026年に取引先からCFPや排出量データの提出を求められる機会が増えている背景には、国内の排出量取引制度の変化があります。2025年に成立した改正GX推進法により、2026年度から排出量取引制度(GX-ETS)への参加が一部事業者に義務化されます。対象はCO2の直接排出量が年10万トン以上の事業者(電力・鉄鋼・化学・セメント・自動車などの大手、約300〜400社規模)で、日本の温室効果ガス排出量の約6割を占めるとされています。
前提:GX-ETSとサプライチェーンへの波及
GX-ETSの対象になるのは一定規模以上の事業者自身の排出量(主にScope1・2)ですが、対象企業は自社のサプライチェーン排出量(Scope3)も合わせて把握・管理する動きを強めています。変圧器・配電盤メーカーなど銅ブスバーの納入先に大手事業者が含まれる場合、部材メーカーに対してCO2排出量データの提供を求める流れが今後も強まる可能性があります。
CBAMと銅の扱い
EUの炭素国境調整措置(CBAM)は2026年1月から本格運用(Definitive Period)が始まり、EU域外からの輸入品に排出量に応じた証書の購入・納付が義務付けられています。ただし2026年時点の対象分野は鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・水素・電力の6分野であり、銅は対象品目に含まれていません。
前提:CBAMは今のところ銅を対象としていない
「CBAM対応」という文脈で銅部品にも排出量データの提出を求める動きが一部で見られますが、これはCBAMの法的義務ではなく、取引先が自社のサプライチェーン排出量(Scope3)を把握する目的で、対象範囲を超えて自主的に依頼しているケースが中心です。CBAMの対象品目は将来的に拡大する可能性があるため、今のうちにデータを整理しておくこと自体には意味があります。
2026年時点でCBAMの対象に銅は含まれていないが、取引先からの自主的な排出量データ依頼は増えている。
新地金を使う場合
- 品質・成分のばらつきが少なく、材質証明がしやすい
- 製錬メーカーのCFP開示データを参照しやすい(大手製錬各社が公表を進めている)
- CO2排出量は相対的に大きくなりやすい
リサイクル地金を使う場合
- 製錬段階のCO2排出量を抑えられる可能性がある
- 供給元・ロットによって成分のトレーサビリティ確認がより重要になる
- 要求される純度・用途によっては採用できない場合がある
発注時に確認しておきたいこと
銅部品の発注者側としてCO2排出量を把握・提出する必要がある場合、加工会社に対して「使用材料(新地金/リサイクル材)」「材料の調達元」「輸送経路」の3点を確認しておくと、後からCFPを算定する際の手戻りが減ります。品質管理の体制とあわせて、材料証明やトレーサビリティの記録を残せるかどうかも発注前の確認ポイントです。
コツ:図面・発注時点で聞いておく
CO2排出量のデータは、後から遡って集めようとすると材料ロットの特定が難しくなることがあります。発注時点で「材料証明と一緒に、使用した地金の種類も記録してほしい」と伝えておくと、将来CFP算定が必要になったときにスムーズです。
銅ブスバー(バスバー)の加工技術そのものはCO2排出量への影響が限定的である一方、材料選定と調達ルートの選び方は影響が大きい領域です。石垣商店では会社情報でご案内している体制のもと、材料の出所を確認できる範囲でご相談に応じています。
よくあるご質問
銅部品のカーボンフットプリントは誰が算定するのですか
基本的には製品を発注・販売する企業が、自社の算定範囲(Scope)に応じて算定します。加工会社は自社工程分の排出データ(電力使用量など)を提供し、地金部分は製錬メーカーが公表するCFP値を使うのが一般的な進め方です。
銅はCBAM(EU炭素国境調整措置)の対象品目ですか
2026年時点では対象になっていません。CBAMの対象分野は鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・水素・電力の6分野で、銅は含まれていません。ただし対象品目は将来拡大する可能性があるため、取引先によってはCBAMとは別に自主的な排出量データを求めてくる場合があります。
リサイクル地金を使えばCO2排出量は必ず減りますか
製錬段階の排出量は新地金より抑えられる傾向にありますが、実際の削減幅は製錬方法や電力の調達状況によって変わります。削減量を正確な数値として提出する場合は、使用した地金の供給元が公表するCFP値や排出係数を確認する必要があります。
排出量データを出典なしで概算のまま提出してもよいですか
概算であること自体は問題ありませんが、「概算」「未算定」である旨を明記し、使用した前提条件を示すことが重要です。出典を示さない数値をそのまま確定値として提出すると、後日の第三者検証で整合性が取れなくなるおそれがあります。
