ブスバー支持がいしの選び方 材質と絶縁性能で決める基準
盤内で銅ブスバー(バスバー)を固定する「支持がいし(支持碍子)」は、材質によって絶縁性能・機械的強度・耐トラッキング性の3点が大きく変わります。結論としては、屋内の一般的な低圧盤なら樹脂系(エポキシ樹脂+ガラス繊維)で十分なケースが多く、高圧回路や粉塵・湿気の多い環境、短絡電流が大きい設計では磁器製や耐トラッキング性を高めた樹脂の方が有利です。この記事では、選定で確認すべき3つの性能と、磁器製・樹脂製の違いを具体的に整理します。
支持がいし
銅ブスバー
絶縁
機械強度
耐トラッキング
キュービクル
配電盤
この記事の内容
支持がいしとは何か
支持がいしとは、盤内でブスバー(バスバー)を筐体やフレームから絶縁した状態で機械的に固定する部材です。ブスバーは大電流が流れる充電部であるため、金属製の筐体や支持金具に直接触れさせるわけにいきません。支持がいしが「絶縁」と「固定」の2つの役割を同時に担っています。
支持がいしは、ブスバーを筐体から絶縁しつつ機械的に固定する部材である。
前提
本記事は屋内・低圧〜高圧の配電盤・キュービクル内で使われる支持がいしを対象にしています。屋外用の懸垂がいし・耐張がいしなど送電線用の大型がいしは対象外です。
選定で確認すべき3つの性能
支持がいしの選定は、絶縁性能・機械的強度・耐トラッキング性の3点を、設置環境と回路条件に照らして確認することに尽きます。どれか1つだけを見て決めると、別の条件で不足が出ます。
支持がいしは絶縁性能・機械的強度・耐トラッキング性の3点を環境条件に照らして選ぶ。
絶縁性能で見ること
- 回路電圧に対する沿面距離・空間距離が確保できる形状か
- 湿気・結露が多い環境かどうか
- 粉塵の付着しやすさ(屋外に近い設置場所か)
機械的強度で見ること
- 短絡電流時に発生する電磁力に耐えられる曲げ強度があるか
- ブスバーの自重・支持スパンに対するたわみが許容範囲か
- 振動・地震時の繰り返し荷重に耐えるか
磁器製と樹脂製、何が違うか
支持がいしの材質は、大きく磁器製とエポキシ樹脂を主体とした樹脂系の2つに分かれます。磁器は経年劣化しにくく耐トラッキング性に優れる一方で重く割れやすい性質があり、樹脂系は軽量・小型で衝撃に強い一方、材種によって耐トラッキング性・耐候性に差が出ます。
磁器製は耐トラッキング性と経年安定性、樹脂製は軽量性と衝撃強度で優位という違いがある。
磁器製と樹脂製の比較
| 項目 | 磁器製 | 樹脂製(エポキシ+ガラス繊維) |
|---|---|---|
| 重量 | 重い | 軽い |
| 耐衝撃性 | 割れやすい | 割れにくい |
| 経年劣化 | 劣化しにくい | 表面材によって差が出る |
| 耐トラッキング性 | 高い | 材種次第(シリコーンゴム被覆等で向上) |
| コスト・入手性 | やや高め | 量産品が多く入手しやすい |
| 主な適用 | 高圧・屋外に近い環境 | 屋内の低圧〜高圧盤 |
磁器製と樹脂製の比較
重量
磁器: 重い / 樹脂: 軽い
耐衝撃性
磁器: 割れやすい / 樹脂: 割れにくい
経年劣化
磁器: 劣化しにくい / 樹脂: 表面材で差が出る
耐トラッキング性
磁器: 高い / 樹脂: 材種次第
コスト・入手性
磁器: やや高め / 樹脂: 入手しやすい
主な適用
磁器: 高圧・屋外に近い環境 / 樹脂: 屋内の低圧〜高圧盤
コツ
樹脂製の中でも、芯材(エポキシ樹脂+ガラス繊維の繊維強化プラスチック)を加硫シリコーンゴムやEVA樹脂で被覆したタイプは、磁器に近い耐トラッキング性を軽量なまま得られます。粉塵・湿気の懸念がある屋内環境では、無被覆の樹脂より優先して検討する価値があります。
トラッキング現象が起きる理由と防ぎ方
トラッキング現象とは、がいし表面に堆積した粉塵が湿気や結露を吸って導電性の薄い膜を作り、その膜に微小な放電(トラッキング)が繰り返されて表面が炭化し、最終的に絶縁破壊に至る現象です。配電盤・キュービクル内の絶縁事故の典型的な原因の一つです。
トラッキングは、がいし表面の粉塵が湿気を吸って導電膜化し、放電の繰り返しで絶縁破壊に至る現象である。
注意
トラッキングは短絡のように瞬間的に起きるものではなく、粉塵の堆積から絶縁破壊まで数か月〜数年かけて進行します。定期点検で表面の汚損・変色を見つけた時点での清掃・交換判断が、事故の予防に直結します。
トラッキング対策として確認すること
- 設置環境の粉塵・湿気の程度に応じて、耐トラッキング性の高い材質(磁器や被覆樹脂)を選ぶ
- 沿面距離を汚損区分に応じて十分に確保する(形状にひだ(かさ)があるものは沿面距離を稼ぎやすい)
- 盤内の換気・防塵対策と組み合わせて、がいし単体だけに頼らない
- 年次点検でがいし表面の変色・微小なクラックを確認する
短絡時の電磁力とがいしの機械強度
支持がいしの機械的強度は、平常時の荷重だけでなく、短絡電流が流れた瞬間にブスバー間に発生する電磁力(反発力・吸引力)に耐えられるかで決まります。電磁力は電流の2乗に比例して大きくなるため、短絡電流が大きい回路ほど、がいしと取付金具の強度に余裕を持たせる必要があります。
支持がいしの機械強度は、短絡電流が流れた瞬間の電磁力に耐えられるかで判断する。
前提
短絡時の電磁力そのものの計算・支持スパンの決め方は設計側のテーマのため、本記事では扱いません。ここでは「がいし選定の段階で、想定短絡電流に対する機械強度の裏付けが必要」という点を押さえてください。
支持構造のイメージ
ブスバー ──┬── 締結ボルト
│
支持がいし(絶縁+固定)
│
取付フレーム/筐体(金属・接地側)
取り付け方式による違い
支持がいしのブスバーへの取り付け方式には、主にボルト締結型とはめ込み型(クランプ型)があります。ボルト締結型は締め付けトルクを管理しやすく大電流回路で実績が多い一方、はめ込み型は組立工数を減らせる代わりに振動環境での保持力を個別に確認する必要があります。
取り付け方式はボルト締結型が大電流回路の主流で、はめ込み型は振動環境での保持力確認が必要になる。
ボルト締結型
- 締め付けトルクを規定値で管理しやすい
- 大電流・高圧回路での採用実績が多い
- 増し締め点検の対象に含める
はめ込み型(クランプ型)
- 組立工数を減らせる
- 振動・熱伸縮での保持力を個別に確認
- 屋内の低圧盤で採用例が多い
耐熱区分から見た支持がいしの選び方
ブスバーは通電時に温度が上昇するため、接触する支持がいしの絶縁材料にも熱がかかります。電気絶縁材料の耐熱性は、JIS C 4003が定める耐熱クラス(Y・A・E・B・F・H・Cなど、許容最高温度で区分される等級)で示されるのが一般的で、樹脂系の支持がいしを選ぶ際は使用する樹脂・被覆材がどの耐熱クラスに対応しているかを確認します。
支持がいしの絶縁材料は、JIS C 4003の耐熱クラスに沿って許容温度を確認してから選ぶ。
注意
耐熱クラスは材料そのものの許容温度を示す区分であり、支持がいし製品ごとの定格電流・機械強度とは別の指標です。カタログの数値がどちらを指しているか、製品仕様書で必ず確認してください。
選定の実務手順
実務では、回路電圧・設置環境・想定短絡電流の3つを先に整理してから、材質と形状を絞り込む順番がやり直しを減らします。
支持がいしの選定は、回路電圧・設置環境・想定短絡電流を先に固めてから材質を絞り込む。
選定の進め方
- ① 回路電圧を確認し、必要な沿面距離・空間距離の目安を押さえる
- ② 設置環境(屋内外の別、粉塵・湿気・振動の有無)を確認する
- ③ 想定される短絡電流から、必要な機械強度の水準を把握する
- ④ 上記を踏まえ、磁器製か樹脂製か、被覆の有無を決める
- ⑤ 盤メーカー・がいしメーカーの仕様書で、実際の寸法と定格を確認する
2026年時点の動向
系統用蓄電池やデータセンターの受配電設備で大電流化が進み、ブスバー1本あたりの電流値が上がる設計が増えています。電流が大きくなるほど短絡時の電磁力も大きくなるため、支持がいし側にもこれまで以上の機械強度が求められる場面が増えているのが2026年時点の傾向です。
最新の状況(2026年)
2026年は系統用蓄電池の接続ルール整備が進み、受電側の大電流設備の新設・増設が増えている局面です。ブスバーの断面積や並列枚数を見直す設計が増えるのに合わせて、支持がいしの機械強度も既存設計をそのまま流用せず、想定短絡電流に対して再確認することをおすすめします。
ブスバー(バスバー)そのものの基礎知識はブスバーとはで解説しています。支持がいしを含めた盤内部材の検査・品質管理の考え方は品質管理のページもあわせてご覧ください。
よくあるご質問
支持がいしと絶縁スペーサーは同じものですか。
役割が近い場面もありますが、支持がいしはブスバーを機械的に固定しながら絶縁する部材で、絶縁スペーサーはブスバー間の距離を保つための補助部材として使われることが多く、単体で主たる固定を担うことは通常ありません。
樹脂製の支持がいしは屋外でも使えますか。
被覆材や配合によっては屋外向けの製品もありますが、紫外線劣化や耐候性は磁器に劣る場合があるため、屋外設置では製品ごとの耐候性データを確認したうえで選ぶ必要があります。
支持がいしの交換時期はどう判断すればよいですか。
年次点検などで表面の汚損・変色・微小なクラックが確認された時点が交換検討の目安です。トラッキングは進行してから絶縁破壊まで時間がかかるため、外観の異常を放置しないことが重要です。
支持がいしの材質は自分で選ばないといけませんか。
多くの場合、盤メーカーが回路電圧や設置環境に応じてあらかじめ選定していますが、既存設備の増設や大電流化に伴う見直しでは、想定短絡電流や設置環境の変化を踏まえて再確認することをおすすめします。
支持がいしとブスバーの締結部で発熱が起きることはありますか。
支持がいし自体は通電部ではないため発熱源にはなりませんが、締結部の緩みや接触抵抗による発熱がある場合、その熱ががいしの絶縁材料に伝わり劣化を早める可能性はあります。締結管理は別途、増し締め点検などで確認してください。
