加工技術

銅ブスバーの長穴加工|寸法の決め方と図面指示の注意点

銅ブスバーの図面で丸穴を長穴に変えるだけで、据付の手戻りが大きく減ることがあります。長穴とは、両端が半円で、その間が平行な2直線になっている穴のことです。この記事では、長穴が必要になる3つの場面、幅と長さの決め方、端部Rと縁距離の考え方、そしてJIS B 0001:2019で増えた図面指示の書き方までを、計算例と表で整理します。丸穴の加工精度とは別の、設計側の判断としてまとめました。

銅ブスバー
長穴加工
スロット
図面指示
JIS B 0001
熱伸縮
締結

銅ブスバーの長穴とは何か、なぜ使うのか

長穴とは、両端が半円形で、その間が平行な2直線になっている穴のことです。小判穴、スロット穴とも呼ばれます。銅ブスバーで長穴が使われる理由は、位置決めの「遊び」を意図的に作ることにあります。丸穴が位置を固定するための穴であるのに対し、長穴はずれを吸収するための穴です。

長穴の各部の呼び方

      ←──────  L(長穴の長さ) ──────→
     ╭────────────────────────╮
     │                        │  ↕ W(長穴の幅)
     ╰────────────────────────╯
      ↑                      ↑
    端部R(=W/2)          端部R(=W/2)

     ↕ e(縁距離:穴の縁から板の端まで)

長穴が必要になる3つの場面

①据付時の芯ずれ吸収

  • 盤の据付や現地合わせで、相手側の端子位置が図面どおりに来ない
  • 複数点で締結する母線は、1か所の狂いが全体に効く
  • 現地合わせを前提にした発注が増えている

②熱伸縮の逃がし

  • 通電で温度が上がると銅は伸びる
  • 両端を丸穴で固定すると、伸びが応力になる
  • 片側を長穴にして滑らせ、応力を逃がす

③曲げ後の穴位置誤差の吸収

  • 複数曲げの品では、各曲げの伸び代の誤差が積み重なる
  • 1か所あたり0.5mmの誤差が3か所あれば、端の穴位置は最大1.5mm動く
  • 穴位置の公差を厳しくするより、長穴で吸収したほうが確実で安いことが多い

長穴は「位置を決めない」ための穴。据付の芯ずれ・熱伸縮・曲げの累積誤差を吸収する目的で使う。

長穴の幅はどう決めるか

長穴の幅は、原則としてボルトの通し穴径と同じ考え方で決めます。つまり「ボルトの呼び径+クリアランス」であり、長さ方向で調整する前提なので、幅方向は無闇に広げません。幅を広げると座面が減り、締結の信頼性が落ちます。

長穴の幅の目安(JIS B 0001の通し穴 2級相当)

ボルト呼び径 長穴の幅 W(目安) 端部R 備考
M6 6.6mm 3.3mm 小電流の分岐・端子接続
M8 9.0mm 4.5mm 盤内で最も多い
M10 11.0mm 5.5mm 主母線の接続
M12 13.5mm 6.75mm 大電流の主回路
M16 17.5mm 8.75mm 受電部・変圧器端子

長穴の幅の目安(JIS B 0001の通し穴 2級相当)

M6

幅 6.6mm / 端部R 3.3mm(小電流の分岐・端子接続)

M8

幅 9.0mm / 端部R 4.5mm(盤内で最も多い)

M10

幅 11.0mm / 端部R 5.5mm(主母線の接続)

M12

幅 13.5mm / 端部R 6.75mm(大電流の主回路)

M16

幅 17.5mm / 端部R 8.75mm(受電部・変圧器端子)

前提

上の値はボルトの通し穴径の一般的な級(中級)に相当する目安です。JISでは通し穴径が1級(密)・2級(中)・3級(粗)の3段階で規定されており、級が上がるほど穴は大きく、組み立ては楽になる代わりに位置精度は落ちます。実際の設計では、参照する規格の版と級を図面側で確認してください。

コツ:幅ではなく長さで逃がす

「少し余裕がほしい」からと幅を広げるのは避けてください。幅を広げると座金の掛かりが減り、締結面圧が落ちて発熱の原因になります。調整したい方向が決まっているなら、幅は標準どおりにして、その方向にだけ長さを伸ばすのが正しい逃がし方です。

幅はボルト通し穴と同じ考え方で決める。余裕がほしいときに広げるのは幅ではなく長さ。

長穴の長さはどう決めるか(熱伸縮の計算例)

長穴の長さは「幅+必要な移動量」で決めます。必要な移動量は、据付調整分・熱伸縮分・累積公差分のうち、その長穴が受け持つものを足し合わせて求めます。目的を決めずに「とりあえず長め」にすると、有効断面積が無駄に減ります。

長穴の長さ L (mm) = 幅 W (mm) + 必要な移動量 (mm)

熱伸縮分の求め方

通電時の温度上昇でブスバーは伸びます。伸び量は次の式で概算できます。

伸び量 ΔL (mm) = 線膨張係数 α × 支持間の長さ L (mm) × 温度差 ΔT (K)

銅の線膨張係数は常温付近でおよそ 16.5×10⁻⁶ /K です。これを使った概算例を示します。

支持間長さ・温度差ごとの熱伸縮量(銅・概算)

支持間の長さ 温度差 30K 温度差 40K 温度差 50K
500mm 0.25mm 0.33mm 0.41mm
1,000mm 0.50mm 0.66mm 0.83mm
2,000mm 0.99mm 1.32mm 1.65mm
3,000mm 1.49mm 1.98mm 2.48mm

支持間長さ・温度差ごとの熱伸縮量(銅・概算)

支持間 500mm

30K→0.25mm / 40K→0.33mm / 50K→0.41mm

支持間 1,000mm

30K→0.50mm / 40K→0.66mm / 50K→0.83mm

支持間 2,000mm

30K→0.99mm / 40K→1.32mm / 50K→1.65mm

支持間 3,000mm

30K→1.49mm / 40K→1.98mm / 50K→2.48mm

注意:熱伸縮だけで長さを決めない

表を見ると分かるとおり、熱伸縮だけなら数mm以内に収まることがほとんどです。実務で長穴が10mm、20mmと長くなるのは、熱ではなく据付の芯ずれと曲げの累積誤差を吸収しているためです。どちらを見込んだ長穴なのかを図面の注記に書いておくと、後の設計変更で誤って短くされる事故を防げます。

長さの目安と使い分け

目的別に見た長穴の長さの目安

目的 必要な移動量 M10での長さの例
熱伸縮の逃がしのみ 1〜3mm 12〜14mm
曲げの累積誤差の吸収 2〜5mm 13〜16mm
据付時の現地合わせ 5〜15mm 16〜26mm

目的別に見た長穴の長さの目安

熱伸縮の逃がしのみ(移動量1〜3mm)

M10で長さ12〜14mm

曲げの累積誤差の吸収(移動量2〜5mm)

M10で長さ13〜16mm

据付時の現地合わせ(移動量5〜15mm)

M10で長さ16〜26mm

長さは「幅+移動量」。熱伸縮は数mm、長い長穴が要るのは据付調整と累積誤差のため。

端部Rと縁距離で確認すること

長穴の端部Rは、原則として幅の1/2(半円)です。これは加工が工具径で決まるためで、幅9mmの長穴なら端部RはR4.5になります。図面でここに別の値を書くと、専用工具が必要になるか、そもそも成立しません。

縁距離(穴の縁から板端までの距離)

縁距離が小さいと、加工時に端が逃げて変形しやすく、締結時には座金の外周が板の外へはみ出して面圧がかかりません。通電部としては、縁距離が小さいほどその部分の実効的な断面が痩せ、局所的な発熱の原因にもなります。長穴は丸穴より穴が長い分、端部が板端に近づきやすいので注意が必要です。

有効断面積の低下を見落とさない

長穴の位置では、板の断面が穴の幅だけ欠けます。長穴は幅方向の欠損量が丸穴と同じでも、その欠損が長い区間にわたって続く点が丸穴と違います。

長穴部の有効断面積 (mm²) = 板厚 t × (幅 B − 長穴の幅 W × 穴の列数)

幅50mm・板厚6mmのブスバーに長穴を開けた場合の断面積(300mm²を100%として)

穴なし
300mm²
M8長穴×1
246mm²
M10長穴×1
234mm²
M10長穴×2
168mm²

注意:2列並べると断面が一気に痩せる

上のグラフのとおり、幅50mmにM10長穴を横に2つ並べると、その断面は穴なしの約56%まで落ちます。接続部は電流が集中する場所であり、しかもボルト締結部は接触抵抗による発熱も加わります。穴を2列にする必要がある場合は、その位置だけ幅を広げるか、板厚を上げるかを検討してください。締結部の発熱については加工技術のページでも触れています。

端部Rは幅の1/2が原則。長穴は断面の欠損が続くため、有効断面積の確認を丸穴より丁寧に行う。

図面での指示方法(JIS B 0001:2019)

長穴の図面指示には複数の書き方があり、どれを使ってもよいことになっています。JIS B 0001:2019(機械製図)の改正では、従来の3通りに加えて4通り目の指示方法が追加され、長穴を表す「SLOT」の記号も使えるようになりました。ただし現場では複数の書き方が混在しているのが実情です。

長穴の主な指示方法

書き方 指示する内容 向いている場面
全長×幅+R指示 長穴の全長と幅、両端が円弧であることをRで示す 最も一般的。誤解が少ない
平行部の長さ×幅+R 平行2平面の長さと幅、両端をRで示す 平行部の接触が機能上重要な場合
工具径×移動距離 加工に使う工具径と、その移動距離 加工方法まで指定したい場合
SLOT記号 記号で長穴であることを示す(2019年改正で追加) 3D CADからの図面出力

長穴の主な指示方法

全長×幅+R指示

最も一般的で誤解が少ない

平行部の長さ×幅+R

平行部の接触が機能上重要な場合に使う

工具径×移動距離

加工方法まで指定したい場合

SLOT記号

2019年改正で追加。3D CADからの図面出力向き

注意:「長さ」が全長か平行部かで結果が変わる

「長さ20mm・幅10mm」と書かれた長穴は、全長20mmなのか、平行部が20mm(=全長30mm)なのかで、できあがりが10mmも違います。この解釈違いは実際に起きます。図面には全長で指示し、必要なら「全長」と注記するのが最も確実です。当社に図面を送っていただく際も、判断が分かれる箇所は先に確認させていただいています。

長穴を図面に入れるときのチェックリスト

  • 長さは全長か平行部か、注記で明示したか
  • 幅はボルトの通し穴径に対して適切か(広げすぎていないか)
  • 端部Rは幅の1/2になっているか
  • 縁距離は確保されているか(板端まで近すぎないか)
  • 長穴の向き(調整したい方向)は明確か
  • その長穴が吸収する対象(熱伸縮・据付調整・累積誤差)を注記したか
  • 長穴部の有効断面積が、必要な通電断面を下回っていないか

書き方は複数あってよいが、「全長か平行部か」だけは必ず読み手に伝わる形で書く。

締結側の注意 — 座金なしで長穴を使わない

長穴にボルトを通すときは、必ず穴の幅より十分に大きい座金を入れます。丸穴なら座面がボルト頭の周囲に均等に取れますが、長穴では長さ方向に座面がなく、ボルト頭が直接当たると接触面積が足りません。

座金がないと起きること

  • 面圧が不足し、締結部の接触抵抗が上がる
  • 接触抵抗による発熱が進み、さらに緩む
  • ボルト頭が長穴に食い込み、板が変形する
  • 締め付け時に部材が長穴方向へ動いてしまう

確認すること

  • 座金の外径が長穴の幅より十分大きいか
  • 座金が長穴の全長にわたって板に載るか
  • 熱伸縮を逃がす長穴では、滑る前提の締結になっているか
  • 締結トルクが規定どおり管理されているか

「滑らせたい長穴」と「固定したい長穴」は別物

据付調整用の長穴は、位置を決めたあとは動かない前提で本締めします。一方、熱伸縮を逃がす目的の長穴は、通電中に実際に滑る必要があります。この2つは締結の考え方が逆で、後者を強く締めすぎると長穴の意味がなくなり、伸びが応力として支持部に集中します。どちらの目的かを図面と施工要領の両方に書いておいてください。

長穴の締結は座金が前提。さらに「滑らせる長穴」か「固定する長穴」かで締め方が変わる。

加工側から見た長穴の注意点

加工の立場から見ると、長穴で最も気を使うのは穴位置の精度と、曲げとの工程順です。銅は柔らかく、曲げが複数工程に及ぶ複雑な形状ほど、両端の穴のピッチが安定しにくくなります。

形状別に見た加工上の判断

形状 工程順 長穴の扱い
直線バー 穴あけ→切断 位置精度を出しやすい
曲げ1か所 穴あけ→曲げ 初品確認で概ね安定
曲げ複数 曲げ→穴あけ 曲げ後に穴を開けるほうが確実
長尺+多曲げ 曲げ→現物合わせ 長穴で吸収する設計を推奨

形状別に見た加工上の判断

直線バー

穴あけ→切断。位置精度を出しやすい

曲げ1か所

穴あけ→曲げ。初品確認で概ね安定する

曲げ複数

曲げ→穴あけ。曲げ後に穴を開けるほうが確実

長尺+多曲げ

曲げ→現物合わせ。長穴で吸収する設計を推奨

コツ:公差を厳しくするより長穴にする

穴位置の公差を厳しく指定すれば精度は上がりますが、工程が増え、単価と納期に跳ね返ります。相手側に多少の遊びが許されるなら、公差を締めるより長穴にしたほうが安く、現場も楽になります。当社への相談でも、現地合わせを前提にした長穴の指定が増えています。どちらが得かは形状と数量で変わるので、図面を送っていただければ判断の材料をお出しします。ブスバーとはのページも合わせてご覧ください。

注意:バリと端面の仕上げ

長穴は丸穴に比べて切削・打ち抜きの距離が長く、その分バリが出る範囲も長くなります。締結面にバリが残ると、座金が浮いて面圧が均一にかからず、接触抵抗が上がります。通電する接続部の長穴では、バリ取りの指示を図面に入れておくことをおすすめします。

曲げが多い品ほど、穴位置の公差を締めるより長穴で吸収したほうが確実で安い。

よくあるご質問

銅ブスバーの長穴の幅はどう決めればよいですか

長穴の幅は、ボルトの通し穴径と同じ考え方で決めます。M8なら9.0mm、M10なら11.0mm、M12なら13.5mmが目安です(JISの通し穴 中級相当)。調整したいからと幅を広げると座金の掛かりが減り、締結面圧が落ちて発熱の原因になるため、余裕は長さ方向で取ってください。

長穴の端部Rはいくつにすればよいですか

端部Rは長穴の幅の1/2、つまり半円が原則です。幅9mmの長穴なら端部はR4.5になります。これは加工が工具径で決まるためで、幅の1/2以外の値を指定すると専用工具が必要になるか、形状として成立しません。

熱伸縮を逃がすには長穴をどれくらい長くすればよいですか

銅の線膨張係数は常温付近でおよそ16.5×10⁻⁶/Kなので、支持間1,000mm・温度差40Kであれば伸び量は約0.66mmです。熱伸縮だけを見込むなら、長穴の長さは幅に対して数mm足せば足ります。実務で10mm以上の長穴が必要になるのは、熱ではなく据付時の芯ずれや曲げの累積誤差を吸収するためです。

図面の「長さ20mm」は全長ですか、平行部ですか

JISでは長穴の指示方法が複数認められており、全長で書く方法と平行部で書く方法の両方が使われています。同じ「長さ20mm・幅10mm」でも、全長なら20mm、平行部なら全長30mmになり、10mmの差が出ます。図面には全長で指示し、必要なら「全長」と注記するのが最も確実です。

長穴にすると通電性能は落ちますか

長穴の位置では、板の断面が穴の幅の分だけ欠けます。幅50mm・板厚6mmのブスバーにM10長穴を1つ開けると断面積は約78%、横に2つ並べると約56%まで落ちます。丸穴でも同じことが起きますが、長穴は欠損が長い区間にわたって続く点が異なります。接続部は電流が集中し接触抵抗による発熱も加わるため、穴の位置だけ幅を広げるか板厚を上げる検討が必要です。

長穴は「精度を出さない」ための穴です。幅はボルト通し穴と同じ考え方で決め、長さは吸収したい対象から逆算し、端部Rは幅の1/2、そして図面では全長か平行部かを明示する。この4点を押さえておけば、長穴まわりの手戻りはほとんど防げます。形状と数量によっては、公差を締めるより長穴にしたほうが安く仕上がるケースも多いので、迷ったら図面の段階でご相談ください。

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