ジャンクションボックス内バスバーの設計|高電圧配電の要件を整理
バッテリージャンクションボックス(BJB)は、電池パックの電力を1か所に集めて分配し、遮断する箱です。結論として、この中で使うバスバーを決めるときは「絶縁距離を先に確保してから導体を通す」「接触部の抵抗を数値で管理する」「点検・交換できる締結にする」の3点を外さないことが重要です。この記事では、BJB内バスバーの役割、絶縁距離(空間距離・沿面距離)の決まり方、接触抵抗と発熱の関係、材質と表面処理の選び方、発注前の確認項目を、2026年時点の動向をふまえて整理します。
ジャンクションボックス
バスバー
高電圧配電
絶縁距離
沿面距離
接触抵抗
締付トルク
この記事の内容
バッテリージャンクションボックスとは何か
バッテリージャンクションボックスとは、電池パックの出力を一度集約し、ヒューズ・接触器・電流検出などの機能を通したうえで、各負荷へ分配する端子箱です。電力が必ずここを通るため、箱の中の導体設計がパック全体の発熱と安全性を左右します。
箱の中には、おおむね次のような部品が収まります。バスバーはこれらを電気的につなぐ骨格にあたります。
ジャンクションボックス内の一般的な構成
電池パック ──[主バスバー]──┬── 主接触器(+側) ──┬── 出力端子(駆動系)
│ │
├── ヒューズ ├── 出力端子(充電系)
│ │
├── 電流センサ └── 出力端子(補機系)
│
└── 主接触器(-側) ── プリチャージ回路
接触器・ヒューズ・電流センサはいずれも端子で接続されるため、バスバーは「点から点へ最短で通す帯」ではなく、部品の端子位置に合わせて曲げ・段差・穴位置を作り込んだ形状になります。ここが盤内の直線的な母線と最も違う点です。ブスバー全般の役割はブスバーとはのページで解説しています。
要点:BJBは電力の集約・遮断・計測を1か所で行う箱で、バスバーはその内部を結ぶ骨格として形状が複雑になる。
箱の中でバスバーは何を担っているか
BJB内のバスバーが担うのは、大電流を低い損失で通すことと、部品同士の位置ずれを吸収して確実に接続することの2つです。電線と違って自由に曲がらないぶん、寸法と穴位置の精度がそのまま組立性に効きます。
電気的に求められること
- 連続電流での温度上昇が規定内に収まる断面積
- 接触部の抵抗が小さく、経時変化しにくいこと
- 短絡時の電磁力に耐える固定・支持
- 他の導体・筐体との絶縁距離の確保
機械的に求められること
- 部品端子の高さ違いを吸収する段曲げ
- 振動下で緩まない締結(座面・座金・トルク)
- 組立時に工具が入る穴位置とクリアランス
- 点検・交換のために外せる構造
電流計測には、微小な抵抗の両端電圧を測る方式と、磁界を検出する方式があります。前者では抵抗値をきわめて小さく取る必要があり、数十マイクロオーム台という値が使われます。この桁の抵抗を扱う回路の近くに主電流のバスバーが通るため、バスバー側の接触抵抗のばらつきが計測系にも影響し得る点は意識しておく価値があります。
要点:BJB内のバスバーは電気性能だけでなく、部品端子の位置合わせという機械的な役割も同時に負っている。
2026年時点で何が変わってきているか
2026年時点の変化は、主回路電圧の800V系への移行と、遮断機能の半導体化の2つです。どちらもBJB内のバスバー設計に直接影響します。
最新の状況(2026年時点)
車両側の主回路電圧は400V系から800V系への切り替えが進んでいます。同じ出力なら電流は約半分になり導体の損失は減りますが、絶縁に必要な空間距離・沿面距離は電圧に応じて増えるため、箱の中では「導体は細くできても、距離は詰められない」という制約が強まります。また、機械式の接触器を半導体スイッチに置き換える高電圧ジャンクションボックスの実用化も進んでおり、2023年には国内の商用EVへの採用例も出ています。半導体化すると発熱源が箱の中に加わるため、バスバーが放熱経路の一部を担う設計も検討されます。材料面では、LME銅価格が2026年前半に1トンあたり13,000ドル台の高値圏で推移しており、断面に持たせる余裕がそのまま原価に効く局面が続いています。
電圧を上げると損失が下がる関係は、次の式で確認できます。同じ電力を送るとき、電圧が2倍なら電流は半分、損失は電流の2乗に比例するので4分の1です。
要点:800V化で導体は細くできるが絶縁距離は増える。半導体化により箱内の発熱源も増える方向にある。
絶縁距離(空間距離・沿面距離)はどう決まるか
絶縁距離は、空気中の最短距離である「空間距離」と、絶縁物の表面をたどった最短距離である「沿面距離」の2つで管理します。低圧機器の絶縁協調はJIS C 60664-1(低圧系統内機器の絶縁協調-第1部:基本原則,要求事項及び試験)が基本になり、必要な距離は表から引きます。
用語の整理
導体A 導体B
●━━━━ 空間距離 ━━━━● ← 空気を通る最短距離
┃ ┃
└──沿面距離──┘ ← 絶縁物の表面をたどる最短距離
(樹脂ケースの表面)
それぞれの必要値は、次の4つの入力から決まります。この4つが決まらないと距離は決められないため、設計の順序としては絶縁の条件を先に固め、そのうえでバスバーの経路を通すことになります。
絶縁距離を決める4つの入力
| 入力 | 意味 | 主にどちらに効くか |
|---|---|---|
| 動作電圧 | その箇所に継続的にかかる電圧(実効値・直流値) | 空間距離・沿面距離の両方 |
| 過電圧カテゴリ | 系統から入るサージ(インパルス電圧)の想定レベル | 空間距離 |
| 汚染度 | ほこり・湿気など、絶縁表面の汚れの想定 | 沿面距離 |
| 材料グループ(CTI) | 絶縁材料が表面で電気を通しにくい度合い | 沿面距離 |
絶縁距離を決める4つの入力
動作電圧 / その箇所に継続的にかかる電圧
空間距離・沿面距離の両方に効く
過電圧カテゴリ / 想定するサージ電圧のレベル
主に空間距離に効く
汚染度 / ほこり・湿気など表面の汚れの想定
主に沿面距離に効く
材料グループ(CTI) / 絶縁材料の表面耐トラッキング性
主に沿面距離に効く
注意:距離は「導体の縁」で効く
絶縁距離は板の中心ではなく、導体の最も近い縁同士で測ります。バリが残っていたり、切断面が鋭利だったりすると、その先端が最短距離の起点になります。また、バスバーの角が尖っているほど電界が集中しやすくなります。切断・穴あけ後のバリ取りと角の処理は、見た目の問題ではなく絶縁性能に関わる工程です。
コツ:距離が足りないときの選択肢
レイアウトで距離を稼げない場合は、(1)導体に絶縁被覆や粉体塗装を施す、(2)ケース側にリブや溝を設けて表面の経路を長くする、(3)絶縁バリアを差し込む、といった手段があります。溝を1本入れるだけで沿面距離を実質的に伸ばせるため、樹脂ケースの形状とバスバー配置は同時に検討すると収まりが良くなります。
要点:絶縁距離は動作電圧・過電圧カテゴリ・汚染度・材料グループの4条件で決まる。距離を決めてから導体を通す。
接触抵抗と発熱をどう管理するか
接続部の発熱は、接触抵抗×電流の2乗で決まります。ボルト1本ぶんの接触抵抗はマイクロオーム単位ですが、大電流が流れる箱の中では無視できない発熱になります。
下表は、接触抵抗と電流から発熱を試算したものです。同じ接触抵抗でも、電流が2倍になれば発熱は4倍になります。締結が甘い箇所ほど接触抵抗が上がり、発熱で酸化が進んでさらに抵抗が上がるという悪循環に入りやすいのが、この部位の典型的な故障の形です。
接触抵抗と電流から見た接続部1か所の発熱(計算値)
| 接触抵抗 | 100A | 300A | 600A |
|---|---|---|---|
| 20μΩ(良好) | 0.2W | 1.8W | 7.2W |
| 50μΩ | 0.5W | 4.5W | 18W |
| 100μΩ | 1.0W | 9W | 36W |
| 200μΩ(劣化) | 2.0W | 18W | 72W |
接触抵抗と電流から見た接続部1か所の発熱(計算値)
接触抵抗 20μΩ(良好)
100A→0.2W / 300A→1.8W / 600A→7.2W
接触抵抗 50μΩ
100A→0.5W / 300A→4.5W / 600A→18W
接触抵抗 100μΩ
100A→1.0W / 300A→9W / 600A→36W
接触抵抗 200μΩ(劣化)
100A→2.0W / 300A→18W / 600A→72W
接触抵抗を低く保つための基本
- 接触面の平面度を確保する(曲げの近くに締結点を置かない)
- 校正したトルクレンチで、指定トルクどおりに締める
- 平座金で面圧を分散し、締付跡による変形を抑える
- すず・ニッケルなどの表面処理で酸化被膜の成長を抑える
- 初回運転後に増し締めするかどうかを、設計段階で決めておく
注意:トルク値は一律に決められない
適正な締付トルクは、ボルトの呼び径だけでなく、材質(強度区分)・表面処理・座面の状態・潤滑の有無で変わります。一般的な目安表をそのまま使うと、締めすぎて銅を塑性変形させたり、逆に不足して緩んだりします。使用する部品の仕様に基づいて決め、その値を図面か作業手順に明記することが確実です。当社の検査体制は品質管理のページで紹介しています。
要点:接続部の発熱は電流の2乗で効く。トルク管理と表面処理で接触抵抗を低く保つことが最大の対策になる。
材質・板厚・表面処理はどう選ぶか
材質は、一般的な用途ならタフピッチ銅(C1100)、水素を含む雰囲気での加熱や高い信頼性が求められる用途なら無酸素銅(C1020)という切り分けが基本です。導電率はどちらも高く、選定の分かれ目は加工方法と使用環境にあります。
BJB内バスバーの材質・処理の選び分け
| 項目 | 候補 | 選ぶ目安 |
|---|---|---|
| 材質 | C1100(タフピッチ銅) | 一般的な用途。流通量が多く入手しやすい |
| 材質 | C1020(無酸素銅) | 還元性雰囲気での加熱を伴う場合、高信頼用途 |
| 質別 | O材(焼鈍) | 曲げが多い形状。割れにくい |
| 質別 | 1/2H材など | 平面度・剛性が要る形状。曲げRは大きめに取る |
| 表面処理 | すずめっき | 一般環境。接触抵抗が低く安定しやすい |
| 表面処理 | ニッケルめっき | 高温・腐食環境。耐熱耐食に優れる |
| 表面処理 | 粉体塗装・熱収縮チューブ | 絶縁が必要な区間。締結面はマスキングする |
BJB内バスバーの材質・処理の選び分け
材質 C1100(タフピッチ銅)
一般的な用途。流通量が多く入手しやすい
材質 C1020(無酸素銅)
還元性雰囲気での加熱を伴う場合、高信頼用途
質別 O材(焼鈍) / 1/2H材
曲げが多いならO材、平面度・剛性が要るなら1/2H材
表面処理 すず / ニッケル
一般環境はすず、高温・腐食環境はニッケル
絶縁 粉体塗装・熱収縮チューブ
絶縁区間に施し、締結面はマスキングで残す
コツ:めっきを乗せない範囲を図面に書く
絶縁被覆や塗装を指定するときは、「どこに乗せるか」より「どこに乗せないか」を明記するほうが確実です。締結面や電流を検出する面に絶縁物が乗ると導通が取れません。マスキング範囲を寸法で指示しておけば、加工側の解釈違いを防げます。
要点:材質はC1100が基本でC1020は用途限定。曲げが多い形状はO材。絶縁はマスキング範囲まで指定する。
発注前に決めておく確認項目
発注前に決めておくべきことは、電流条件・絶縁条件・締結条件・絶縁処理の範囲の4つです。BJB内のバスバーは形状が複雑になるぶん、この4つが曖昧なまま図面化すると手戻りが大きくなります。
見積り依頼の前に決めておくこと
- 連続電流とピーク電流、想定する箱内の周囲温度
- 系統電圧(400V系/800V系)と、絶縁で満たすべき条件(汚染度など)
- 接続する相手部品(接触器・ヒューズ・センサ)の端子仕様と高さ
- 締結のボルト呼び径・本数・指定トルク、座金の有無
- 材質(C1100/C1020)、質別、板厚、曲げRの許容範囲
- 表面処理の種類と膜厚、めっきや塗装を乗せない範囲
- 絶縁処理の方法(粉体塗装/熱収縮チューブ/成形樹脂)
- 数量と時期(試作何個、量産で月何個)
図面がまだ無い段階でも相談できます
手書きのスケッチ、3Dデータの一部、現物の写真からでも、板厚・曲げ・穴位置の実現性と、加工方法の当たりを付けられます。特に段曲げや狭い箇所の穴位置は、寸法を詰める前に一度ご相談いただくと、工具が入らないといった問題を事前に潰せます。
要点:電流・絶縁・締結・絶縁処理範囲の4条件が決まれば、図面前でも実現性と見積りの判断ができる。
よくあるご質問
バッテリージャンクションボックスとは何をする装置ですか
電池パックの出力を1か所に集め、ヒューズや接触器による遮断、電流の検出を行ったうえで、駆動系・充電系・補機系などへ分配する端子箱です。電力が必ずここを通るため、内部のバスバー設計が全体の発熱と安全性に直結します。
空間距離と沿面距離の違いは何ですか
空間距離は導体間を空気中で測った最短距離、沿面距離は絶縁物の表面をたどって測った最短距離です。空間距離は主にサージ電圧(過電圧カテゴリ)で決まり、沿面距離は汚染度と絶縁材料の耐トラッキング性で決まります。低圧機器ではJIS C 60664-1が基本となる規格です。
接続部の締付トルクはどう決めればよいですか
ボルトの呼び径だけでは決められません。ボルトの材質(強度区分)、表面処理、座面の状態、潤滑の有無で適正値が変わるためです。使用する部品の仕様に基づいて決めたうえで、その値を図面か作業手順書に明記し、校正済みのトルクレンチで管理する方法が確実です。
接続部が発熱する原因は何ですか
最も多いのは接触抵抗の増加です。発熱は接触抵抗と電流の2乗の積で決まるため、たとえば接触抵抗100μΩの箇所に300Aが流れると約9Wの発熱になります。締付不足、接触面の平面度不良、酸化被膜の成長、温度サイクルによる締付力の低下が主な原因で、いったん発熱が始まると酸化が進んで抵抗がさらに上がる悪循環になりやすい点に注意が必要です。
800V系になるとバスバーの設計は何が変わりますか
同じ出力なら電流が約半分になるため、導体の断面積は小さくできて損失も減ります。一方で、絶縁に必要な空間距離・沿面距離は電圧が上がるほど大きくなるため、箱の中では距離の確保が設計上の制約になります。導体を細くできても、その分だけ配置が自由になるとは限らない点が実務上の要注意点です。
