硬銅と軟銅の違いは?ブスバーの質別O材・1/2H・H材の選び方
硬銅と軟銅の違いは、材質(成分)の違いではなく「加工硬化しているかどうか」の違いです。同じ C1100(タフピッチ銅)でも、圧延したままの硬い状態が硬銅、焼なましして柔らかくした状態が軟銅で、JIS では O・1/4H・1/2H・H といった「質別記号」で区別します。この記事では、質別記号の読み方、JIS H 3140:2018(銅ブスバー)が定める引張強さ・伸び・導電率の実際の数値、曲げ加工できる質別の見分け方、そして板厚によって選べる質別が変わるという調達の落とし穴までを整理します。
硬銅
軟銅
質別
O材
1/2H
JIS H 3140
C1100
銅ブスバー加工
この記事の内容
硬銅と軟銅の違いとは何か
硬銅と軟銅は、成分が違う別の金属ではありません。同じ純銅を、加工硬化させたままにしたものが硬銅、焼なまし(アニール)して軟らかく戻したものが軟銅です。したがって C1100 にも C1020 にも、硬銅の状態と軟銅の状態の両方が存在します。
質別とは、材料の機械的性質の状態を表す区分のことです。圧延や引抜きで銅を変形させると内部の結晶が乱れ、強度と硬さが上がる代わりに伸びが落ちます。これが加工硬化です。ここに熱を加えると結晶が組み直され、強度は下がりますが伸びが回復します。これが焼なましです。質別記号は、この「どこまで硬化させたか / どこまで戻したか」を表しています。
同じ材質でも、質別で別物になる
圧延したまま(加工硬化) 焼なまし(軟化)
H(硬質) ←─── 1/2H ─── 1/4H ───→ O(軟質)
強度 高 ────────────────────────────→ 低
伸び 低 ────────────────────────────→ 高
曲げやすさ 悪 ──────────────────────→ 良
導電率 わずかに低 ──────────────→ 最も高い
硬銅(H・1/2H など)
- 圧延・加工硬化した状態
- 強度・硬さが高い
- 板の平坦度・剛性を保ちやすい
- ボルト締結で座面がへこみにくい
- 曲げると割れやすい
- スプリングバックが大きい
軟銅(O・1/4H など)
- 焼なましで軟らかく戻した状態
- 伸びが大きく曲げやすい
- 小さな曲げRで加工できる
- 導電率がわずかに高い
- 強度が低く変形しやすい
- 長いスパンではたわみやすい
硬銅と軟銅の違いは「熱処理の履歴」。材質の指定(C1100 か C1020 か)とは別に、必ず質別も指定する必要があります。
質別記号の読み方(O・1/4H・1/2H・H)
質別記号の「H」は Hard(硬質)、「O」は焼なまし(軟質)を表し、H の前に付く分数は硬化の度合いを示します。1/4H → 1/2H → H の順に硬くなり、O が最も軟らかい状態です。銅ブスバーについては JIS H 3140:2018 が、質別ごとの引張強さ・伸び・導電率を規定しています。
JIS H 3140:2018(銅ブスバー)の質別ごとの規定値 ― C1020BB / C1100BB
| 質別 | 厚さの適用範囲 | 引張強さ | 伸び | 導電率 |
|---|---|---|---|---|
| O(軟質) | 2.0〜30mm | 195 N/mm² 以上 | 35% 以上 | 100%IACS 以上 |
| 1/4H | 2.0〜30mm | 215〜275 N/mm² | 25% 以上 | 98%IACS 以上 |
| 1/2H | 2.0〜20mm | 245〜315 N/mm² | 15% 以上 | 98%IACS 以上 |
| H(硬質) | 2.0〜10mm | 275 N/mm² 以上 | 規定なし | 97%IACS 以上 |
JIS H 3140:2018 の適用寸法は厚さ 2.0〜30mm、幅 300mm 以下です。上表は規格の規定値であり、実際に入ってくる材料の値はミルシート(材料試験成績書)で確認します。
JIS H 3140:2018(銅ブスバー)の質別ごとの規定値
O(軟質) / 厚さ 2.0〜30mm
引張強さ 195 N/mm² 以上 / 伸び 35% 以上 / 導電率 100%IACS 以上
1/4H / 厚さ 2.0〜30mm
引張強さ 215〜275 N/mm² / 伸び 25% 以上 / 導電率 98%IACS 以上
1/2H / 厚さ 2.0〜20mm
引張強さ 245〜315 N/mm² / 伸び 15% 以上 / 導電率 98%IACS 以上
H(硬質) / 厚さ 2.0〜10mm
引張強さ 275 N/mm² 以上 / 伸びの規定なし / 導電率 97%IACS 以上
「1/2H」の読み方と、H材に伸びの規定がない理由
1/2H は「二分の一エイチ」「ハーフハード」と読みます。表で H材だけ伸びの規定がないのは、硬質材は曲げて使うことを前提にしていないためです。逆に言えば、伸びの規定がある O・1/4H・1/2H は、程度の差はあれ曲げ加工を想定した質別だと読めます。
質別ごとに引張強さ・伸び・導電率が規格値として決まっています。「銅なら何でも同じ」ではありません。
導電率はどれだけ違うのか
結論として、質別による導電率の差はごく小さく、最も軟らかい O材(100%IACS 以上)と最も硬い H材(97%IACS 以上)で 3ポイント程度です。したがって、通電性能を理由に質別を選ぶ場面はほとんどありません。質別の選定は、実質的に機械的性質と加工性で決まります。
質別ごとの導電率(JIS H 3140:2018 の規定下限値・%IACS)
コツ:3%の差より、断面積と接続部の差のほうがはるかに大きい
質別による導電率差が3ポイント程度である一方、板厚を1段変えれば断面積は十数%変わり、接続部の締結が不十分なら接触抵抗が桁で変わります。導電性能で悩む余地があるのは、質別ではなく断面積と接続部です。質別は「曲げるか、剛性を取るか」で決めてください。銅ブスバーのメリットのページでは、銅を導体に使う理由を導電率の観点から整理しています。
導電率は O:100 / 1/4H:98 / 1/2H:98 / H:97 %IACS 以上。差は小さく、選定理由にはなりません。
曲げ加工できる質別はどれか
曲げ加工を伴う部品は O材または 1/4H材、曲げのない直線部品は 1/2H材以上、という選び分けが基本です。JIS H 3140:2018 では質別ごとに曲げ性の要求も定められており、O材・1/4H材は 180°、1/2H材は 90° の曲げに対する規定が設けられています(内側半径は厚さに応じた倍数で規定されます)。H材にはこの規定がありません。
つまり規格自体が、「1/2H は直角までなら曲げる想定、H は曲げない想定」という設計思想で書かれています。図面に鋭い曲げがあるのに H材が指定されている場合、加工側から必ず質別の確認が入るのはこのためです。
注意:硬い質別を無理に曲げると、割れは外側から始まる
曲げの外側は引張られ、内側は圧縮されます。伸びの少ない硬質材では外側が伸びきれず、曲げRの外側表面から微細な割れ(クラック)が入ります。初期の割れは目視で見えないこともあり、通電後の熱サイクルで進行して破断につながります。厚板ほど外側と内側のひずみ差が大きくなるため、厚板 × 硬質材 × 小さな曲げR は最も危険な組み合わせです。
曲げRの考え方(目安)
純銅の焼なまし材(O材)であれば、内側の曲げ半径は板厚の1倍程度から曲げられるのが一般的な目安とされています。質別が硬くなるほど、また板厚が増すほど、割れを避けるために曲げRを大きく取る必要があります。実際の限界は板厚・幅・曲げ方向(圧延方向との関係)・金型で変わるため、最終的には現物で確認するのが確実です。
コツ:スプリングバックも質別で変わる
硬い質別は弾性域が広いため、曲げた後に戻る量(スプリングバック)が大きくなります。同じ金型・同じ角度指示でも、1/2H材と O材では仕上がり角度が変わるということです。試作と量産で質別を変えると、寸法が合わなくなります。曲げ形状のある部品は、試作の段階から量産と同じ質別で作るのが安全です。曲げ加工の勘所は加工技術のページでもご紹介しています。
曲げるなら O材か 1/4H材。1/2H は直角まで。H材は曲げない前提の質別です。
用途別の選び分け
1本のブスバーの中でも、求められる性質は場所によって違います。曲げがある部品は加工性、長いスパンを渡る母線は剛性、締結部は座面のへこみにくさが優先されます。迷ったときは次の順で決めていきます。
質別を決める手順
- 曲げがあるかを確認する ― あるなら O材または 1/4H材が第一候補
- 曲げ角度と曲げRを確認する ― 90°までで R が十分なら 1/2H も検討できる
- 支持間隔を確認する ― スパンが長くたわみが心配なら硬い質別を選ぶ
- 板厚を確認する ― 厚板では硬い質別が選べない場合がある(次章)
- 入手性と納期を確認する ― 流通在庫の多い質別・寸法なら納期が短い
用途別の質別の選び分け(目安)
| 用途・形状 | 推奨される質別 | 理由 |
|---|---|---|
| 複数箇所を曲げる立体形状の部品 | O / 1/4H | 伸びが大きく、小さな R でも割れにくい |
| 直角1箇所の曲げ + 穴あけ | 1/4H / 1/2H | 90°の曲げ性が規定されている範囲 |
| 穴あけのみの直線バー(締結板) | 1/2H | 締結時に座面がへこみにくく、平坦度を保てる |
| 支持スパンの長い盤内母線 | 1/2H | 剛性が高くたわみと振動に強い |
| 可撓性が必要な接続部 | O(薄板の積層) | 軟質の薄板を重ねて動きを吸収する |
| 厚さ20mmを超える大電流母線 | O / 1/4H | 規格の適用範囲上、これ以外を選びにくい |
用途別の質別の選び分け(目安)
複数箇所を曲げる立体形状の部品
O / 1/4H ― 伸びが大きく、小さな R でも割れにくい
直角1箇所の曲げ + 穴あけ
1/4H / 1/2H ― 90°の曲げ性が規定されている範囲
穴あけのみの直線バー(締結板)
1/2H ― 締結時に座面がへこみにくく、平坦度を保てる
支持スパンの長い盤内母線
1/2H ― 剛性が高くたわみと振動に強い
可撓性が必要な接続部
O(薄板の積層) ― 軟質の薄板を重ねて動きを吸収する
厚さ20mmを超える大電流母線
O / 1/4H ― 規格の適用範囲上、これ以外を選びにくい
「曲げがあるか」「スパンが長いか」の2点で、ほとんどのケースは決まります。
板厚で選べる質別が変わる — 調達の落とし穴
JIS H 3140:2018 では、質別によって適用できる厚さの範囲が違います。O材と 1/4H材は 2.0〜30mm ですが、1/2H材は 2.0〜20mm、H材は 2.0〜10mm までです。つまり厚さ25mm の 1/2H材や、厚さ15mm の H材は、この規格の中では成立しません。ここは実務で見落とされやすい点です。
質別ごとに適用できる厚さの上限(JIS H 3140:2018)
厚くなるほど硬い質別が用意されない理由は、製造工程の側にあります。硬い質別は圧延による加工硬化で作りますが、板が厚くなると板厚方向の中心部まで均一に硬化させることが難しく、規定の強度を安定して満たせなくなります。厚板は必然的に軟らかい質別になると理解しておくと、選定を間違えません。
注意:大電流化で厚板が増え、この制約に当たりやすくなっている
2026年は AI・データセンター向けの受配電設備や急速充電インフラで大電流化が進み、断面積を稼ぐために厚いブスバーを使う設計が増えています。断面積の要求から板厚を20mmや25mmに上げた結果、「1/2H で剛性を取る」という従来の社内標準がそのまま使えなくなるケースが出ます。この場合は質別で剛性を取るのをやめ、支持間隔を詰める・支持点を増やすという設計変更で対応します。
厚板では硬い質別が選べません。厚さ20mm超では剛性を質別ではなく支持設計で確保します。
図面での質別指示と発注の実務
材料指示は「材質記号 + 製品記号 + 質別記号」の形で書きます。銅ブスバーなら、たとえば C1100BB-1/2H のように表記します。質別記号が抜けていると、材料手配の段階で必ず問い合わせが発生し、その分だけ納期が延びます。
材質記号(タフピッチ銅) + 製品記号(BB=ブスバー) + 質別記号(1/2H=半硬質)
質別に関して図面・見積依頼に書いておきたいこと
- 材質と質別…C1100BB-1/4H など。未定なら「曲げあり・質別要相談」でも構いません
- 曲げの角度と内側R…R指示がないと、加工側で質別と割れリスクを判断できません
- 板厚と幅…厚さ20mm超なら、質別の選択肢が限られる前提で相談します
- 支持間隔…剛性が必要な理由(スパン・短絡時の電磁力など)が分かると代替案を出せます
- ミルシートの要否…材料試験成績書の提出が必要かどうか
- 試作か量産か…試作と量産で質別を変えると寸法が変わるため、事前に揃えます
コツ:質別が決められないときは「曲げ形状」を先に伝える
質別は加工性と剛性のバランスで決まるので、形状が分かれば加工側から提案できます。「質別が分からないので図面が出せない」と止まるより、曲げ形状のスケッチだけでもご相談いただいたほうが早く進みます。当社(株式会社石垣商店・名古屋市守山区瀬古)は変圧器・配電盤・受配電設備・電池関連向けの銅ブスバー加工を手がけており、質別の選定を含めてご提案しています。材料の品質管理については品質管理のページをご覧ください。
2026年の材料事情 — 質別変更が価格に響く場面
2026年は銅相場が高値圏で推移しています。LME銅は1トンあたり13,000ドルを超える史上最高値圏まで上昇し、国内の銅建値も2026年6月時点で1トンあたり229万円という水準が示されました。背景には鉱山側の供給不安と、AI・データセンター、送配電網の増強、電池・EV といった「電化」由来の構造的な需要があります。材料費の比率が上がっている局面では、質別や板厚の変更が流通在庫から外れて特注扱いになると、価格と納期の両方に響きます。設計段階で「在庫のある寸法・質別で成立するか」を一度確認しておく価値が、以前より大きくなっています。
図面には C1100BB-1/2H の形で質別まで書く。決められないときは曲げ形状を先に共有してください。
よくあるご質問
硬銅と軟銅の違いは何ですか?
硬銅と軟銅は成分の違いではなく、熱処理と加工硬化の状態の違いです。圧延などで加工硬化したまま強度が高い状態が硬銅、焼なまし(アニール)して軟らかく伸びを回復させた状態が軟銅です。同じ C1100(タフピッチ銅)にも硬銅と軟銅の両方が存在し、JIS では O・1/4H・1/2H・H といった質別記号で区別します。
質別記号の「1/2H」とはどういう意味ですか?
H は Hard(硬質)を意味し、1/2H はその中間の硬さ、つまり半硬質を表す質別記号です。「ハーフハード」とも呼ばれます。JIS H 3140:2018(銅ブスバー)では 1/2H の引張強さは 245〜315 N/mm²、伸びは15%以上、導電率は98%IACS以上と規定されており、厚さ2.0〜20mmの範囲に適用されます。
質別によって導電率はどれくらい変わりますか?
ほとんど変わりません。JIS H 3140:2018 の規定値では、O材が100%IACS以上、1/4Hと1/2Hが98%IACS以上、H材が97%IACS以上で、最も軟らかい質別と最も硬い質別の差は3ポイント程度です。通電性能を理由に質別を選ぶ必要はほとんどなく、質別は曲げ加工性と剛性のどちらを優先するかで決めます。
曲げ加工がある部品にはどの質別を選べばよいですか?
O材または 1/4H材を選びます。JIS H 3140:2018 では O材・1/4H材に180°、1/2H材に90°の曲げ性の規定があり、H材には曲げ性の規定がありません。伸びの少ない硬い質別を小さな曲げRで曲げると、曲げの外側表面から割れが入るおそれがあります。厚板で小さなRの曲げが必要な場合は、質別を軟らかい側に振るのが安全です。
厚さ25mmの 1/2H材は手に入りますか?
JIS H 3140:2018 における 1/2H材の適用厚さは2.0〜20mmのため、厚さ25mmは規格の範囲外になります。厚さ20mmを超える銅ブスバーでは O材または 1/4H材が選択肢になります。厚板で剛性が必要な場合は、質別で強度を上げるのではなく、支持間隔を詰めて支持点を増やす設計で対応してください。
試作と量産で質別を変えても大丈夫ですか?
曲げ形状がある部品では避けてください。質別が変わるとスプリングバック量が変わるため、同じ金型・同じ角度指示でも仕上がりの角度と寸法が変わります。試作で寸法を確認した意味がなくなるので、曲げのある部品は試作段階から量産と同じ質別で製作することをおすすめします。
