ブスバーの温度上昇と許容温度の計算|周囲温度の補正と盤内温度
ブスバーの温度上昇は、発熱(I²R)と放熱が釣り合った点で決まります。したがって許容電流は断面積だけでは決まらず、周囲温度・許容温度・形状(放熱周長)で変わります。温度上昇の計算の考え方、周囲温度が変わったときの補正、実務で最も外しやすい「盤内温度の見落とし」を、数値と計算例で整理します。
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銅ブスバー
この記事の内容
2026年時点の状況
AIデータセンターの建設が続き、受配電設備の大電流化が進んでいます。銅相場も高値圏で、2026年6月時点のLME銅価格は1トン当たり13,500ドル前後で推移しました。材料を余分に厚くして安全を買う設計が、以前よりコストに響く時代です。「どこまでなら細くできるか」を温度上昇から詰める意味が大きくなっています。
ブスバーの温度上昇はどう決まるか
ブスバーの温度上昇は、導体内部で発生する熱と、表面から逃げる熱が等しくなったところで止まります。電流の二乗に比例して発熱が増え、温度差に比例して放熱が増える釣り合いです。以降の補正はすべてこの式から導けます。
- I:電流(A) R:その温度でのブスバー1mあたりの抵抗(Ω/m)
- h:総合熱伝達率(W/m²·K)。自然対流+放射で、目安として8〜15程度
- A:1mあたりの放熱面積(m²/m)= 断面の周長
- ΔT:温度上昇(K)= 導体温度 − 周囲温度
熱の流れ
電流 I ──▶ 導体の抵抗 R ──▶ 発熱 I²R
│
┌───────────┴───────────┐
▼ ▼
表面からの対流・放射 接続部・支持物へ伝導
(周長 A に比例) (盤の構造で変わる)
│
▼
温度上昇 ΔT が止まる点
計算例:6mm × 50mm のブスバーに1,000Aを流す
銅(タフピッチ銅C1100相当、導電率ほぼ100%IACS)の20℃での体積抵抗率は約1.7241×10⁻⁸ Ω·m、抵抗温度係数は約0.00393/Kです。導体温度を90℃と仮定して順に計算します。
計算の順番
- ① 断面積:6mm × 50mm = 300mm²
- ② 90℃での抵抗率:1.7241×10⁻⁸ ×(1 + 0.00393 × 70)≒ 2.20×10⁻⁸ Ω·m
- ③ 1mあたりの抵抗:2.20×10⁻⁸ ÷ 300×10⁻⁶ ≒ 73μΩ/m
- ④ 発熱:1,000² × 73×10⁻⁶ ≒ 73W/m
- ⑤ 放熱周長:2 ×(6 + 50)= 112mm = 0.112m²/m
- ⑥ 必要な放熱能力:73 ÷ 0.112 ≒ 650W/m²
- ⑦ h=13W/m²·K とすると ΔT ≒ 650 ÷ 13 ≒ 50K
周囲温度40℃なら導体は約90℃。仮定した90℃と一致するので、この条件は成り立ちます。導体温度を仮定して抵抗を出し、結果が仮定と合うか確かめる——この往復が温度上昇計算の実体です。
注意:20℃の抵抗値で計算すると発熱を約25%見落とす
銅の抵抗は1K上がるごとに約0.393%増えます。20℃から105℃まで上がると抵抗は約1.33倍。20℃の抵抗値で損失を計算すると、実際の高温状態での発熱を約25%小さく見積もることになります。温度が上がる→抵抗が増える→さらに発熱が増える、という正のフィードバックがあるため、必ず想定する運転温度での抵抗値を使ってください。
要点:温度上昇は「電流の二乗 × 高温での抵抗 ÷(周長 × 熱伝達率)」で決まる。
許容温度105℃・温度上昇限度65Kはどこから来るのか
許容温度とは、銅が耐えられる温度ではなく、そのブスバーに接している「いちばん弱い部材」が耐えられる温度です。盤内導体では、周囲温度40℃を基準に温度上昇限度65K(最高許容温度105℃以下)を前提とする設計例が広く使われています。この105℃という数字の出どころは銅ではなく、絶縁物・樹脂部品・接続相手の耐熱です。
銅そのものは100℃前後で機械的性質が失われるわけではありません。制約になるのは次の側面です。
許容温度を決めるもの
- 絶縁物・粉体塗装・熱収縮チューブの耐熱クラス
- 支持碍子やスペーサの樹脂の許容温度
- 接続相手(遮断器・端子・ケーブル端末)の端子部許容温度
- めっきの耐熱(錫めっきは高温で拡散・変質が進む)
- 人が触れる可能性がある部位の表面温度
許容温度を決めないもの
- 銅の融点(1,085℃前後。設計上まったく効かない)
- 短時間の短絡電流に対する熱的強度(別の基準で見る)
絶縁物の耐熱クラスと許容最高温度
絶縁材料の耐熱区分(JIS C 4003)は次のように整理されています。ブスバー本体の許容温度は、原則としてこの表のうち最も低いクラスに引っ張られます。
耐熱クラスと許容最高温度(JIS C 4003)
| 耐熱クラス | 許容最高温度 | 周囲40℃での許容温度上昇 |
|---|---|---|
| 90(旧Y種) | 90℃ | 50K |
| 105(旧A種) | 105℃ | 65K |
| 120(旧E種) | 120℃ | 80K |
| 130(旧B種) | 130℃ | 90K |
| 155(旧F種) | 155℃ | 115K |
| 180(旧H種) | 180℃ | 140K |
耐熱クラスと許容最高温度(JIS C 4003)
耐熱クラス 90(旧Y種)/許容最高 90℃
周囲40℃での許容温度上昇 50K
耐熱クラス 105(旧A種)/許容最高 105℃
周囲40℃での許容温度上昇 65K
耐熱クラス 120(旧E種)/許容最高 120℃
周囲40℃での許容温度上昇 80K
耐熱クラス 130(旧B種)/許容最高 130℃
周囲40℃での許容温度上昇 90K
耐熱クラス 155(旧F種)/許容最高 155℃
周囲40℃での許容温度上昇 115K
耐熱クラス 180(旧H種)/許容最高 180℃
周囲40℃での許容温度上昇 140K
コツ:温度上昇の限度は「一番低い制約」から逆算する
裸銅のままなら余裕があっても、絶縁チューブを被せた瞬間にそのチューブの耐熱が上限になります。設計の最初に「この構成で最も耐熱が低い部材は何か」を1つ決めてしまうと、以降の計算がぶれません。銅ブスバーへのめっきや絶縁処理の仕様を先に固めるのが有効です。
要点:許容温度105℃は銅の限界ではなく、周辺部材の耐熱クラスから来ている。
周囲温度が変わったとき、許容電流はどう補正するか
許容電流は、許容できる温度上昇の平方根に比例します。発熱が電流の二乗に比例するためです。基準条件(周囲40℃・許容温度105℃・許容ΔT=65K)の許容電流を100%とすると、条件が変わったときの係数は次の式で見積もれます。
周囲温度別の許容電流補正係数(許容温度105℃・基準40℃のとき)
| 導体まわりの温度 | 許容できる温度上昇 | 許容電流の係数 |
|---|---|---|
| 30℃ | 75K | 約1.07 |
| 40℃(基準) | 65K | 1.00 |
| 50℃ | 55K | 約0.92 |
| 55℃ | 50K | 約0.88 |
| 60℃ | 45K | 約0.83 |
| 70℃ | 35K | 約0.73 |
周囲温度別の許容電流補正係数(許容温度105℃・基準40℃のとき)
導体まわり 30℃/許容温度上昇 75K
許容電流の係数 約1.07
導体まわり 40℃(基準)/許容温度上昇 65K
許容電流の係数 1.00
導体まわり 50℃/許容温度上昇 55K
許容電流の係数 約0.92
導体まわり 55℃/許容温度上昇 50K
許容電流の係数 約0.88
導体まわり 60℃/許容温度上昇 45K
許容電流の係数 約0.83
導体まわり 70℃/許容温度上昇 35K
許容電流の係数 約0.73
許容温度が下がる側の補正も同じ式
絶縁チューブや接続相手の都合で許容温度が105℃より低くなる場合も、同じ式で扱えます。周囲40℃のまま許容温度が90℃に下がれば許容ΔTは50Kになり、係数は√(50÷65)≒0.88。周囲温度が15K上がるのと、許容温度が15K下がるのは、許容電流の上では同じ意味です。
注意:この係数は「同じ形状・同じ放熱条件」での比較
上の式は、放熱の条件(設置向き・すき間・風の有無)が変わらない前提で成り立ちます。密集配置に変えた、盤を密閉した、換気ファンを止めた——こうした変更は熱伝達率 h 自体を変えるため、平方根の式ではカバーできません。温度上昇計算をやり直すか実測で確認してください。
要点:周囲温度が上がるほど許容電流は下がるが、下がり方は平方根なので緩やか。
盤内温度の見落としが、いちばん多い設計外し
導体にとっての「周囲温度」は、盤の外の気温ではなく盤の中の空気温度です。盤内は変圧器・遮断器・電線自身の損失で暖まるため、外気より10〜20K高いことが珍しくありません。ここを外気温のまま計算すると、実際の導体温度が想定より20K近く高く出ます。
計算例:盤外35℃の現場で何が起きるか
盤外の気温35℃、盤内昇温15K → 導体まわりの実質周囲温度は50℃。許容温度105℃なら許容ΔTは55Kで、係数は約0.92。さらに絶縁チューブの耐熱が90℃だとすると許容ΔTは40Kまで縮み、係数は√(40÷65)≒0.78。基準表の許容電流をそのまま使うと、約22%の過負荷で運転していることになります。
実質周囲温度の出し方
- ① 設置場所の想定最高気温を決める(夏季・日射・屋内外を考慮)
- ② 盤内昇温を足す(換気あり10K前後/密閉や高密度実装なら20K以上を見込む)
- ③ ①+②を「導体まわりの温度」として §3 の表に当てる
- ④ 絶縁・接続相手の許容温度のうち最も低い値を許容温度として採用する
コツ:盤の上下方向の温度差も見る
盤内の暖まった空気は上に溜まるため、同じ盤でも上段は下段より数K〜10K高くなります。発熱の大きい導体を上段に密集させないだけで実質的な周囲温度を下げられ、設計段階の配置替えならコストもかかりません。
要点:外気温+盤内昇温が導体の周囲温度。外気温のまま計算すると必ず甘くなる。
同じ断面積でも、形状で温度上昇は変わる
断面積が同じなら発熱は同じですが、放熱は断面の周長に比例するため、薄く広い形状のほうが温度上昇は小さくなります。断面積300mm²を4通りの形で作ると、放熱周長は最大で約2.9倍の差が出ます。
断面積300mm²での放熱周長の比較(3×100mmを100%とする)
断面積300mm²・同一電流での温度上昇の目安比較
| 板厚×幅 | 放熱周長 | 周長比 | 温度上昇の目安 |
|---|---|---|---|
| 3mm×100mm | 206mm | 1.84 | 約0.55倍 |
| 6mm×50mm | 112mm | 1.00 | 1.00(基準) |
| 10mm×30mm | 80mm | 0.71 | 約1.4倍 |
| 15mm×20mm | 70mm | 0.63 | 約1.6倍 |
断面積300mm²・同一電流での温度上昇の目安比較
3mm×100mm/放熱周長 206mm(周長比1.84)
温度上昇の目安 約0.55倍
6mm×50mm/放熱周長 112mm(周長比1.00)
温度上昇の目安 1.00(基準)
10mm×30mm/放熱周長 80mm(周長比0.71)
温度上昇の目安 約1.4倍
15mm×20mm/放熱周長 70mm(周長比0.63)
温度上昇の目安 約1.6倍
注意:この比は単純化した目安
上の「温度上昇の目安」は、発熱が同じで放熱が周長に比例するという単純化から出した比です。実際は形状によって熱伝達率 h も変わり、交流では表皮効果で厚い板の内側が使いにくくなるため、薄く広い形状の有利さは表の数字よりさらに大きく出る傾向があります。逆に、薄すぎる板は機械的強度・短絡電磁力・曲げ加工の制約を受けます。
コツ:並列にするならすき間を空ける
1枚の厚板を複数枚の並列に分けると放熱面を稼げますが、すき間なく密着させると内側の板が放熱できず、枚数を増やした効果が出ません。板厚と同程度以上のすき間を確保してください。厚い絶縁を巻くのも、熱がこもるうえ許容温度自体が下がるため逆効果です。
薄く広い形状は温度上昇に有利ですが、曲げ加工の精度や支持方法の設計と表裏一体です。断面形状を検討する段階から、加工技術のページにある対応範囲と合わせてご相談ください。
要点:温度上昇を下げたいなら、厚くするより広くする。
温度上昇を設計で抑える手順
温度上昇の検討は、①許容温度を決める → ②実質周囲温度を出す → ③許容ΔTを確定する → ④形状を仮決めして計算する、の順で進めます。この順を逆にして「電流密度の目安表から断面積を決める」だけで済ませると、周囲温度と許容温度の条件が抜け落ちます。
温度上昇の検討手順
- ① 構成部材のうち最も耐熱が低いものを特定し、許容温度を決める
- ② 設置環境の最高気温 + 盤内昇温 = 実質周囲温度を出す
- ③ 許容ΔT = 許容温度 − 実質周囲温度
- ④ 電流密度の目安から断面積を仮決めし、板厚×幅を選ぶ
- ⑤ その形状で発熱(高温での抵抗を使う)と放熱周長を計算し、ΔTを求める
- ⑥ ③の許容ΔTに収まらなければ、幅を広げる/枚数を分ける/換気を足す
- ⑦ 実機でサーモグラフィにより確認し、想定との差を記録する
断面積の一次見積りに使われる電流密度の目安
実務では、まず電流密度で断面積のあたりを付け、そのあと温度上昇で検証する流れが一般的です。次の値は業界で広く使われている目安で、JISで定められた数値ではなく、温度上昇計算を簡略化した便法である点に注意してください。
定格電流別の電流密度の目安(業界で広く使われる簡易値)
| 定格電流 | 電流密度の目安 | 必要断面積の例 |
|---|---|---|
| 100A以下 | 2.5A/mm²以下 | 100A → 約40mm² |
| 100A超〜225A以下 | 2.0A/mm²以下 | 200A → 約100mm² |
| 225A超〜400A以下 | 1.8A/mm²以下 | 400A → 約222mm² |
| 400A超〜500A以下 | 1.5A/mm²以下 | 500A → 約333mm² |
定格電流別の電流密度の目安(業界で広く使われる簡易値)
定格 100A以下/電流密度 2.5A/mm²以下
必要断面積の例:100A → 約40mm²
定格 100A超〜225A以下/電流密度 2.0A/mm²以下
必要断面積の例:200A → 約100mm²
定格 225A超〜400A以下/電流密度 1.8A/mm²以下
必要断面積の例:400A → 約222mm²
定格 400A超〜500A以下/電流密度 1.5A/mm²以下
必要断面積の例:500A → 約333mm²
電流が大きくなるほど許容電流密度が下がるのは、断面積を増やしても放熱面が同じ比率では増えないためです。この表を500A超へ外挿してはいけないのも同じ理由です。ブスバーが電線に代わって使われる背景はブスバーとはのページでも整理しています。
補足:短絡時の温度上昇は別問題
ここまでは連続通電での定常温度上昇の話です。短絡電流のように数十〜数百ミリ秒だけ流れる電流では、放熱する時間がないため発生した熱がすべて導体自身の温度上昇に使われると考えます(断熱計算)。判定に使う許容温度も、連続通電の105℃ではなく、はるかに高い短時間許容温度になります。定常と短絡は、別の計算・別の基準で確認してください。
要点:電流密度で当たりを付け、温度上昇で検証する。順番を逆にしない。
よくあるご質問
銅バーに電流を流したとき、どれくらい温度が上がりますか
断面積300mm²(6mm×50mm)の銅ブスバーに1,000Aを連続で流した場合、自然対流の条件では温度上昇は約50K、周囲温度40℃なら導体温度は約90℃が目安です。ただし温度上昇は形状・設置条件・換気で大きく変わるため、実際の設計では発熱(電流²×高温での抵抗)と放熱(断面の周長×熱伝達率)の釣り合いから計算し、完成後にサーモグラフィで実測して確認してください。
ブスバーの許容電流は断面積1mm²あたり何Aですか
業界で広く使われる目安は、定格100A以下で2.5A/mm²以下、100A超225A以下で2.0A/mm²以下、225A超400A以下で1.8A/mm²以下、400A超500A以下で1.5A/mm²以下です。電流が大きくなるほど値が下がるのは、断面積を増やしても放熱面積が同じ割合では増えないためです。これはJISの規定値ではなく温度上昇計算を簡略化した便法なので、大電流や高温環境では温度上昇計算で検証する必要があります。
周囲温度が40℃を超える場所では、許容電流をどう補正しますか
許容電流は「許容できる温度上昇」の平方根に比例するため、補正係数は √{(許容温度 − 実際の周囲温度)÷(許容温度 − 40℃)} で見積もれます。許容温度105℃・基準周囲温度40℃の場合、周囲50℃なら約0.92、60℃なら約0.83、70℃なら約0.73です。ただしこの式は放熱条件が変わらない前提なので、密集配置や密閉構造に変える場合は温度上昇計算をやり直してください。
ブスバーの許容温度105℃・温度上昇限度65Kはどこから来る数字ですか
銅の限界ではなく、ブスバーに接する絶縁物や樹脂部品の耐熱から来ています。周囲温度40℃を基準に、耐熱クラス105(旧A種)の絶縁物を想定すると許容温度105℃・温度上昇限度65Kになります。したがって耐熱クラス90の部材が1つでも含まれていれば許容温度は90℃・許容温度上昇は50Kに下がります。設計では構成部材のうち最も耐熱が低いものを基準にしてください。
板を厚くすればブスバーの温度上昇は下がりますか
厚くするより幅を広げるほうが温度上昇は下がります。断面積300mm²を15mm×20mmで作ると放熱周長は70mm、3mm×100mmなら206mmで約2.9倍になり、同じ電流でも温度上昇の目安は半分以下になります。交流では表皮効果で厚板の内側が電流を運びにくくなるため、薄く広い形状の有利さはさらに大きくなります。ただし薄すぎる板は機械的強度と短絡時の電磁力に対して弱くなるため、放熱と強度のバランスで決めてください。
「この電流を流したいが、この寸法で収まるか」という段階でも、放熱周長と加工性の両面からご提案できます。
