ブスバーの導電率で比べるタフピッチ銅C1100と無酸素銅C1020の違い
ブスバーの材料を選ぶとき、「タフピッチ銅(C1100)と無酸素銅(C1020)はどちらが導電率が高いのか」で迷う方が多くいます。結論から言うと、導電率はどちらもほぼ同等(おおよそ100%IACS前後)で、導電率で選び分ける材料ではありません。分かれ目は「高温で水素にさらされる工程があるか」——つまり溶接・ろう付け・真空環境があるかどうかです。この記事では、両者の規格上の違い、選定の判断フロー、価格差の考え方、2026年の需要動向までを整理します。
タフピッチ銅
C1100
無酸素銅
C1020
導電率
IACS
水素脆化
JIS H 3100
ブスバー
この記事の内容
タフピッチ銅と無酸素銅の導電率はどちらが高いのか
導電率はほぼ同等です。JIS上の銅純度はC1020(無酸素銅)が99.96%以上、C1100(タフピッチ銅)が99.90%以上でC1020のほうが高純度ですが、導電率はどちらも軟質状態でおおよそ100%IACS前後にそろいます。「純度が高いほうが電気を通す」という直感は、この2材料の間では当てはまりません。
なぜ純度が低いのに導電率が同じなのか
タフピッチ銅には0.02〜0.05%程度の酸素が含まれています。この酸素が、導電を妨げる不純物元素(鉄・けい素など)を酸化物として析出させ、電気の通り道から追い出す働きをします。結果として、純度の数字ではC1020に劣るタフピッチ銅が、実用上ほぼ同じ導電率を示します。酸素は「不純物」ではなく「不純物を無害化する役割」を担っているわけです。
主な導体材料の導電率(軟銅を100とした相対値・目安)
注意:同じ「銅」でも脱酸方法で導電率は落ちる
配管などで使われるりん脱酸銅(C1201/C1220)は、りんで脱酸するため残留りんが導電率を下げます。板厚や外観が似ていても導体用途では選択肢になりません。ブスバーの材料指定を「銅板」とだけ書くと意図しない材料が入るおそれがあるため、図面には必ずC1100/C1020と材質記号で書くことをおすすめします。
要点:C1100とC1020の導電率はほぼ同等。導電率で選び分ける材料ではない。
タフピッチ銅(C1100)とは
タフピッチ銅とは、銅純度99.90%以上で、脱酸のために0.02〜0.05%程度の酸素を意図的に残した純銅です。JIS H 3100(銅及び銅合金の板及び条)に規定され、電気用・導体用の純銅としてもっとも流通量が多い材料です。
C1100の長所
- 導電率・熱伝導率が高い(実用上C1020と同等)
- 流通量が多く、板厚・幅の入手性がよい
- C1020より価格が安く、コストを抑えやすい
- 切断・穴あけ・曲げなどの機械加工は素直
C1100の短所
- 還元性雰囲気での高温加熱で水素脆化のおそれ
- 溶接・ろう付けを多用する用途には不向き
- 真空機器用途には使いにくい
変圧器・配電盤・受配電設備のブスバーは、ボルト締結で組み立てるものが大半です。高温の水素環境に置かれる工程がなければ、C1100が第一候補になります。当社が受ける受配電設備向けの案件も、多くはC1100で成立します。
要点:C1100はボルト締結が中心の一般的なブスバーの標準材。入手性とコストで有利。
無酸素銅(C1020)とは
無酸素銅とは、銅純度99.96%以上で酸素含有量をおおよそ0.002%以下まで下げた純銅です。酸素をほぼ含まないため、還元性雰囲気で高温にさらしても水素脆化が起きません。溶接・ろう付け・真空環境が前提の用途で選ばれます。
C1020の長所
- 水素脆化が起きないため溶接・ろう付けができる
- 真空機器・高信頼用途に使える
- 導電率・熱伝導率が高い
- 加工硬化後も延性が保たれやすい
C1020の短所
- 製造工程が増えるためC1100より高価
- 板厚・幅の在庫が薄く、手配に時間がかかることがある
- 一般的なボルト締結用途では長所を活かせない
コツ:電池・EV向けは最初からC1020を前提に検討する
リチウムイオン電池やEVの電池パック用ブスバーでは、セル端子との接合にレーザ溶接や超音波接合を使うのが一般的です。接合部が局所的に高温になる工程があるため、材料はC1020を前提に設計するほうが後戻りがありません。「まずC1100で試作して、量産で溶接に変えたら割れた」という手戻りは避けたいところです。
要点:C1020は溶接・ろう付け・真空が絡む用途の材料。電池・EV向けは最初からこちら。
C1100とC1020を一覧で比較する
両者の違いは実質的に「酸素含有量とそれに起因する溶接性」「価格と入手性」の2点に集約されます。導電率・熱伝導率・耐食性はほぼ同等と考えて差し支えありません。
C1100(タフピッチ銅)とC1020(無酸素銅)の比較
| 項目 | C1100 タフピッチ銅 | C1020 無酸素銅 |
|---|---|---|
| 銅純度(JIS H 3100) | 99.90% 以上 | 99.96% 以上 |
| 酸素含有量 | 約0.02〜0.05% | 約0.002% 以下 |
| 導電率 | 約100%IACS | 約100%IACS |
| 熱伝導率 | 高い | 高い |
| 水素脆化 | 還元性雰囲気の高温加熱で発生のおそれ | 起きない |
| 溶接・ろう付け | 不向き | 適する |
| 真空機器用途 | 不向き | 適する |
| 価格 | 安い | 高い |
| 入手性(板・平角) | よい | やや限定的 |
| 主なブスバー用途 | 変圧器・配電盤・受配電設備(ボルト締結) | 電池・EV・真空機器・溶接接合品 |
C1100(タフピッチ銅)とC1020(無酸素銅)の比較
銅純度(JIS H 3100)
C1100:99.90%以上 / C1020:99.96%以上
酸素含有量
C1100:約0.02〜0.05% / C1020:約0.002%以下
導電率・熱伝導率
どちらも約100%IACS・高い(実用上ほぼ同等)
水素脆化
C1100:還元性雰囲気の高温加熱で発生のおそれ / C1020:起きない
溶接・ろう付け・真空用途
C1100:不向き / C1020:適する
価格・入手性
C1100:安く入手しやすい / C1020:高くやや限定的
主なブスバー用途
C1100:変圧器・配電盤・受配電設備(ボルト締結) / C1020:電池・EV・真空機器・溶接接合品
要点:違いは酸素・溶接性・価格の3点。導電率と熱伝導率はほぼ同等。
なぜ酸素があると水素脆化が起きるのか
水素脆化とは、銅の中の酸化銅(Cu₂O)が高温で水素と反応して水蒸気になり、その圧力で内部に微細な割れが生じる現象です。タフピッチ銅は酸素を含むため組織内に酸化銅が存在し、水素を含む還元性雰囲気で加熱されるとこの反応が起きます。
水素脆化が起きる仕組み
【C1100 タフピッチ銅】
銅の中の Cu2O + 高温の H2
↓ 反応
Cu + H2O(水蒸気)が内部で発生
↓ 逃げ場がない
内部から押し広げられ 微細な割れ → もろくなる
【C1020 無酸素銅】
Cu2O が ほぼ無い → 反応が起きない → 割れない
注意:「溶接しない」つもりでも工程を見直す
水素脆化は溶接・ろう付け・水素雰囲気での焼鈍・還元炉での加熱など、高温かつ水素が存在する条件で問題になります。設計段階では「ボルト締結だけ」と考えていても、量産化のときに接合方法が溶接に変わったり、めっき前処理や熱処理の工程が入ったりすることがあります。工程が固まる前に材料を決め切らないのが安全です。判断に迷う場合はご相談ください。
逆に言えば、常温の大気中でボルト締結して使う一般的なブスバーでは、C1100の酸素が問題になることはありません。「無酸素銅のほうが上位の材料だから念のためC1020で」という選定は、多くの場合コストだけが増えます。
要点:水素脆化は「高温+水素」でのみ起きる。常温のボルト締結ならC1100で問題ない。
どちらを選ぶべきかの判断フロー
選定は「高温で水素にさらされる工程があるか」の一点をまず判定し、無ければC1100、あればC1020とするのが実務的です。下のフローで大半のケースが判断できます。
材料選定の判断手順
- ① 溶接・ろう付けを行うか → 行うなら C1020
- ② 真空環境で使うか → 使うなら C1020
- ③ 水素を含む雰囲気での高温加熱工程があるか → あるなら C1020
- ④ ①〜③がすべて「いいえ」 → C1100(コストと入手性で有利)
- ⑤ 顧客の仕様書・過去図面で材質が指定されているか → 指定に従う(指定が最優先)
用途別の推奨材料
| 用途 | 接合方法 | 推奨 |
|---|---|---|
| 変圧器の内部導体・引出導体 | ボルト締結・ろう付け | C1100(ろう付けありならC1020) |
| 配電盤・分電盤の主母線 | ボルト締結 | C1100 |
| 受配電設備の接続導体 | ボルト締結 | C1100 |
| 蓄電池・EV電池パック | レーザ溶接・超音波接合 | C1020 |
| 真空装置・加速器関連 | 溶接・ろう付け | C1020 |
| アース・接地用導体 | ボルト締結・圧着 | C1100 |
用途別の推奨材料
変圧器の内部導体・引出導体(ボルト締結・ろう付け)
C1100(ろう付け工程があるならC1020)
配電盤・分電盤の主母線(ボルト締結)
C1100
受配電設備の接続導体(ボルト締結)
C1100
蓄電池・EV電池パック(レーザ溶接・超音波接合)
C1020
真空装置・加速器関連(溶接・ろう付け)
C1020
アース・接地用導体(ボルト締結・圧着)
C1100
要点:溶接・真空・水素高温のいずれかがあればC1020、無ければC1100。
価格差はどのくらい見ておけばよいか
C1020はC1100より高価で、製造工程が増える分だけ単価が上がります。価格差の幅は板厚・幅・数量・時期で変わるため一律には言えませんが、選定を変えるだけでコストが動く要素として認識しておく価値があります。
最新の状況(2026年時点)
銅の原料価格は高値圏にあります。2026年前半には国内の銅建値が2,000円/kgを超える水準が報じられ、LME(ロンドン金属取引所)の銅価格も過去の高値圏を上回って推移しました。生成AI向けデータセンター、EV、再生可能エネルギーの需要が重なり、中長期でも需給はひきしまるとの見方が多い状況です。材料費の比重が上がっているため、材質のグレード選定と歩留りの改善がコストに直接効きます。
コストを押し上げる選定
- 必要のない用途でC1020を指定する
- 流通していない板厚・幅を指定して特注材にする
- 歩留りの悪い形状で材料を余らせる
- 公差を必要以上に厳しくして工数を増やす
コストを抑える工夫
- 工程条件を確認し、C1100で足りるなら使う
- 流通寸法に形状を合わせる
- 板取りを意識した形状に見直す
- 死守すべき寸法だけを厳しくする
当社は加工会社として材料手配も行っているため、「この形状ならこの板厚のほうが板取りがよい」といった提案が可能です。設計が固まる前の段階でご相談いただくほど、効く余地が大きくなります。銅を導体として使う理由や特性の全体像は銅ブスバーのメリット、ブスバーそのものの役割はブスバーとはで解説しています。
要点:C1020は高価。必要のない指定を避け、流通寸法と板取りでコストを抑える。
2026年の需要動向とブスバー材料選定
2026年時点では、電力設備向けと電池向けの両方で銅ブスバーの需要が伸びており、それぞれで求められる材料が異なる点が実務上のポイントです。ひとつの会社の中で、C1100の案件とC1020の案件が並行して動く状況が増えています。
2026年の需要動向と材料の関係
| 動き | 内容 | 関係する材料 |
|---|---|---|
| 変圧器のトップランナー基準改定 | 2026年4月から新基準品へ移行。鉄心・巻線の大型化にともない導体の設計見直しが発生 | 主にC1100 |
| データセンターの新設ラッシュ | 生成AI向け投資が電力設備の需要を押し上げ、変圧器・受変電設備の納期に影響 | 主にC1100 |
| EV・蓄電池の拡大 | 電池パック内の大電流導体が増加。溶接接合が前提 | 主にC1020 |
| 銅価格の高値圏推移 | 材料費の比重が上昇。歩留りと材質選定の影響が拡大 | 両方 |
2026年の需要動向と材料の関係
変圧器のトップランナー基準改定
2026年4月から新基準品へ移行。導体の設計見直しが発生 → 主にC1100
データセンターの新設ラッシュ
生成AI向け投資で電力設備需要が拡大、納期に影響 → 主にC1100
EV・蓄電池の拡大
電池パック内の大電流導体が増加、溶接接合が前提 → 主にC1020
銅価格の高値圏推移
材料費の比重が上昇。歩留りと材質選定の影響が拡大 → 両方
コツ:同じ形でも「用途が変わったら材質を見直す」
受配電設備向けに作っていたブスバーを、電池関連の案件に流用したいという相談は実際にあります。このときC1100のままレーザ溶接の工程に入れると、水素脆化のリスクが出ます。形状が同じでも接合方法が変わったら材質を再確認するのが原則です。
要点:電力設備向けはC1100、電池向けはC1020。用途が変わったら材質を見直す。
加工性の違いと発注時に伝えること
切断・穴あけ・曲げ・タップといった機械加工の難易度は、C1100とC1020でほとんど変わりません。どちらも軟らかく粘りのある純銅で、加工上の注意点(刃物への溶着、バリ、打痕)は共通です。差が出るのは「溶接するか」と「材料手配の期間」です。
見積り依頼時に伝えていただきたいこと
- 材質 — C1100かC1020か。決まっていなければ「未定」と書いて用途を教えてください
- 接合方法 — ボルト締結か、溶接・ろう付けか(材質選定の決め手になります)
- 板厚・幅・長さ — おおよそで構いません
- 数量とロットの見込み — 試作1本か、月何本か
- めっき・絶縁の要否 — 錫めっき・ニッケルめっき・粉体塗装など
- 使用環境 — 屋内外、想定電流、温度条件
- 希望納期 — C1020の特注寸法は材料手配に時間がかかる場合があります
材質が決まっていなくても相談できます
「変圧器の中で使う導体で、端子とボルトでつなぐ」——この情報だけでも材質の提案は可能です。当社は加工技術のとおり切断から曲げ・穴あけ・タップ・端面処理まで一貫して行い、品質管理の体制のもとで寸法を保証しています。図面がない段階のご相談も歓迎します。
要点:機械加工性はほぼ同じ。材質・接合方法・納期を伝えれば提案できる。
よくあるご質問
タフピッチ銅と無酸素銅はどちらが導電率が高いですか
実用上はほぼ同等で、どちらも軟質状態でおおよそ100%IACS前後です。無酸素銅C1020のほうが銅純度は高い(99.96%以上)のですが、タフピッチ銅C1100に含まれる酸素が導電を妨げる不純物を酸化物として無害化するため、導電率の差はほとんどありません。
C1100とC1020の銅純度はそれぞれいくつですか
JIS H 3100では、C1020(無酸素銅)は銅99.96%以上、C1100(タフピッチ銅)は銅99.90%以上と規定されています。酸素含有量はC1020が約0.002%以下、C1100が約0.02〜0.05%です。
ブスバーを溶接する場合はどちらを選べばよいですか
溶接やろう付けを行う場合は無酸素銅C1020を選びます。タフピッチ銅C1100は組織内の酸化銅が高温で水素と反応して水蒸気を生じ、内部から割れる水素脆化を起こすおそれがあるためです。EV・蓄電池向けでレーザ溶接を使う用途も同様にC1020が前提になります。
水素脆化とは何ですか
水素脆化とは、銅の中の酸化銅(Cu₂O)が高温で水素と反応して水蒸気を発生させ、その圧力で材料の内部に微細な割れが生じてもろくなる現象です。酸素をほぼ含まない無酸素銅C1020では起きません。常温の大気中でボルト締結して使う一般的なブスバーでは問題になりません。
コストを抑えたいのですが、C1100で問題ありませんか
溶接・ろう付け・真空環境・水素を含む雰囲気での高温加熱のいずれもなく、ボルト締結で常温の大気中で使うのであれば、C1100で問題ありません。変圧器・配電盤・受配電設備向けの多くはこの条件に当てはまり、C1100が標準的な選択です。
りん脱酸銅(C1220)はブスバーに使えますか
導体用途には適しません。りん脱酸銅は脱酸に使ったりんが残るため導電率が下がり、目安として軟銅比で約75〜90%程度になります。配管など別の用途向けの材料です。ブスバーの図面では材質をC1100またはC1020と記号で明記してください。
